平日朝の東海道新幹線。東京駅や品川駅からは、スーツをまとったサラリーマンたちがたくさん乗り込んでくる。これから、名古屋や大阪などに出張する予定があるのだろう。
寝ている人、スマホをいじっている人など、様々だが、パソコンを広げて、メールの返信や出張先の仕事の準備に勤しんでいる人も多い。
通勤時間が労働時間にならない、ということは知られているが、東海道新幹線の「パソコン族」の移動時間は、通勤時間なのか、労働時間なのか。会社が労働時間と認めない場合はどうすればいいのか。古屋文和弁護士に聞いた。
●業務をせざるを得ない状況を会社が黙認していれば労働時間にあたることも
まず、労働時間とはどのように定義されるのか。
「労働時間とは、労働者が使用者の指揮監督のもとにある時間と考えられています。この説明だけでは、どのような場合が労働時間にあたるのかややわかりにくいと思いますが、実際の裁判では、業務としての性質があるか等の視点で判断されることになります」
出張の移動時間については、労働時間ではないということになるのか。
「出張のための移動時間(自宅から出張先に移動する場合)は、通常は移動中に自由に過ごすことができるため、日常の出勤のための時間と同様に、労働時間とは考えられません。あくまで、仕事をする場所へ行くための時間という意味で、通勤時間と同じということになります。遠方出張の前日入りなどで、休日に移動した場合も同様です。
ただし、例えば、出張の目的が物品の運搬であり、物品の監視を義務づけられているような場合には、出張の際の移動そのものが業務であるといえますので、労働時間にあたります(東京地判平成24年7月27日)
また、自動車を運転して出張先まで移動したケースで、公共交通機関での移動に比べて、自由度が高いわけではないとして、労働時間であると認めた裁判例があります(大阪地判平成22年10月14日)」
新幹線内でパソコンを広げて作業をする時間については、どう考えればいいのか。
「スケジュールや業務の内容的に、出張の移動中にどうしても業務をせざるを得ない状況があり、それを会社が黙認していた場合には、例外的に労働時間と判断される可能性はあります」
●会社としては、移動中の業務指示を明確にした方がトラブル防止につながる
会社が移動時間を労働時間と認めない場合、どうしたらいいのか。
「出張のための移動時間が労働時間として認められる場合は限定されています。
出張の際の移動自体が業務にあたるような場合や、会社から移動中の業務を指示された場合であれば、労働時間にあたるとして、会社に対して、賃金(割増賃金)の請求を行えるケースがあります。
具体的なケースによりますが、会社に出張のための移動時間を労働時間と認めさせることが厳しい場合でも、会社に対して、健康に配慮して出張の頻度を下げてもらったり、宿泊を許可してもらうなどの申し出を行うことが考えられます」
会社としてはどこに注意すればいいのか。
「いくら出張の必要があるからといって、会社が高い頻度で長時間の移動を伴う出張を命じる場合は、従業員の健康が害されてしまう可能性が高まるため、出張命令自体が権利濫用として無効になる可能性があります。
そこで、従業員の出張の負担を考慮して適切な範囲の出張にとどめる工夫をすることや、出張を命じた場合には、移動中の業務の指示について明確にすることがトラブル防止につながります」