商品を買い替えさせるため、一部の企業が、製品の寿命を意図的に短くしているのではないかという疑惑が報じられている。いわゆる「タイマー」問題だ。
たとえば、米アップルは、iPhoneの一部機種に、バッテリーの劣化にともない性能が低下するプログラムを仕込んでいたことが発覚。会社側は意図しないシャットダウンを防ぐためだったと説明しているが、納得しない一部のユーザーがアメリカで集団訴訟を起こした。
日本企業の疑惑も報じられている。AFP通信の報道によると、プリンター大手のセイコーエプソンは、フランスの検察当局によって2017年11月から予備的捜査を受けているという。同国には、製品の寿命を意図的に短くすることを禁じる法律があり、これに違反している可能性があるそうだ。
経年劣化は仕方がないとして、意図的に製品の寿命が縮められていた場合、日本の法律でも企業の責任を問うことはできるのだろうか。上田孝治弁護士に聞いた。
●企業の責任を問えても、賠償額は少なくなりそう
ーー経年劣化の場合と事情は違ってくる?
ユーザーは、どんな製品であっても、経年劣化があること自体は承知の上で製品を購入していると言えます。
ですので、例えば、早く経年劣化するような部品が使われていた製品があって、その製品が他の同種の製品よりも早めに壊れてしまったというケースでは、法律的な責任を問うことは基本的にできないと思われます。実際、早く壊れてしまう製品は、それ故に製品の価格が安いことも多いと思います。
それに対して、経年劣化とは全く無関係に、意図的に製品の性能を低下させたり寿命を縮めたりする仕組みを用いるケースは、ユーザーがそれらを承知の上で製品を購入しているとは通常言えません。
ーーたとえば、iPhoneのようにプログラムが絡んだ事例が考えられそうだ。こうした場合、企業の責任は問える?
一概には言えませんが、ユーザーがおよそ承知していない意図的な性能の低下は、メーカーによる不法行為として損害賠償の対象になる可能性があります。この辺りは、意図的に性能を低下させることについて、(1)メーカーがユーザーに告知したかどうか、(2)その内容、(3)性能低下を必要とする具体的な事情などにもよります。
もっとも損害賠償の対象になるとしても、損害額としては、新製品に買い換えた費用そのものということではなく、あくまでも性能が低下した分に相当する額ということになりますので、具体的な損害額の評価は簡単ではありません。
ーーいずれにしても、「性能が低下した分」だと、あまり金額には期待できなさそうだ。
●意図的な性能低下の場合、保証期間は関係なさそう
ーー意図的な性能低下が「保証期間外」に起きるよう仕組まれていた場合は、どうだろうか?
製品の保証期間が設定されている場合、保証期間が経過するということは、経年劣化についてはユーザーが受け入れざるを得ないということにはなります。しかし、意図的な性能低下までもユーザーが受け入れざるを得ないことを意味するわけでは通常ありません。
したがって、保証期間中はもちろん、保証期間を経過した後でも、メーカー側が好きなように意図的な性能低下をさせることができることにはなりません。