すっかり秋めいてきたこの季節。コスモスやそばの花の間を、ミツバチが飛び交う。山間部や農村では、そんなのどかな景色が見られるようになってきた。
可愛らしいミツバチたちは、野生のものばかりではない。実は、個人が趣味で飼っているケースも決して珍しくない。
ところが、この「趣味の養蜂」には意外な落とし穴がある。
「自宅の裏山に巣箱を置いて、蜂蜜がとれたらいいな」。そんな気軽な気持ちで始めたとしても、場合によっては法律違反になり、10万円以下の過料を科される可能性があるのだ。
いったい、なぜなのか。「養蜂」をめぐる意外なルールを農林水産省に聞いた。(ライター・タカイワマサ)
●「集落に一人くらい」趣味で蜂を飼う人たち
「養蜂をやっている人は、ここらへんだと集落に一人ぐらいはいると思います。裏山にいくと巣箱が置いてある光景をしばしば目にします」
栃木県の山間部に住む30代男性はそう話す。本格的に蜂蜜を採取する養蜂家だけでなく、野鳥観察のような感覚で趣味として楽しんでいる人もいるという。
農林水産省の統計でも、蜂を飼う人は増えている。2025年1月時点の飼育戸数は1万2150戸。2018年の9578戸から約1.3倍となった。
男性自身も、養蜂を始めようと考えたことがある。
「県に連絡したところ、『すでに近隣にニホンミツバチ(在来種)を飼育している人がいる』と言われました。そのため、『近くでセイヨウミツバチ(外来種)を飼育すると、ニホンミツバチをいじめる可能性があるので避けてほしいが、ニホンミツバチなら調整ができる可能性が高い』と説明を受けました」
実は、一般にはあまり知られていないが、養蜂をする場合、原則として都道府県への届出が必要になる。
無届けで養蜂をした場合、養蜂振興法に基づき、10万円以下の過料を科される可能性もある。
●飼育場所が近いと「蜜源」を奪い合う
巣箱に入ったミツバチの巣(kapinon / PIXTA)
なぜ、自分の土地などに巣箱を置いて蜂を飼うだけで、行政への届出が必要なのだろうか。
農林水産省に尋ねると、その背景には「ミツバチをめぐる環境を適切に保つ」という目的があるという。
「過密飼育を避ける意図があります。届出制なので受理されたら手続き自体は完了なのですが、その後に行政が調整する可能性があるという制度です。
ミツバチの飼育場所が近いと蜜源を奪い合ってしまう、病気がうつりやすくなる、それから他の群れの巣から蜜を盗んでくる『盗蜂』といった問題が起きるおそれがあります。そのため、必要に応じて飼育場所などの調整をおこないます」(畜産局畜産振興課)
●農業を支える仕組みともつながる
では、近隣に複数の養蜂家がいる場合、行政はどのように調整するのか。
ここで重要になるのが、ミツバチが「蜂蜜をつくる」以外にも担っている役割だ。
「ミツバチには、単に蜂蜜がとれるというだけではなく、農業にとって大切な役割があります。それは果樹などの花粉の交配です。
ハウス栽培をしているイチゴやメロンなどはビニールハウスで締め切っているので、人為的にミツバチを放つ必要があります。
そういった受粉用ミツバチの供給をたくさん担っている養蜂家の方を優先することで、農業を守っていくという方針があります」
養蜂の届出は、単に「蜂蜜をとる人同士」の問題ではない。
イチゴやメロン、果樹などの生産を支えるミツバチをどう確保するのか。日本の農業を支える仕組みともつながっているのだ。
●「趣味だから届出不要」は通用しない
それでも、無届けで養蜂をしているケースは存在するという。その背景には、「どこから届出が必要なのか」というルールが十分に知られていないこともあるようだ。
養蜂振興法が大きく改正されたのは2012年。それまでは原則として養蜂業者が届出の対象だったが、改正後は趣味で飼う個人なども対象となった。
農水省の担当者はこう説明する。
「都道府県や養蜂協会などを通じて法律に関して周知は進んできましたが、『山奥に巣箱を置いたら、たまたまニホンミツバチが入ってきただけなので大丈夫』と思っている方もいるかもしれません。
現在は、『反復継続』して養蜂をおこなっている場合には、規模にかかわらず、自家用であっても届出が必要だという考え方を示しています」
「趣味だから」「山奥だから」「蜂蜜を売っていないから」──。
こうした理由だけで、届出が不要になるわけではない。
一方、自然の中に巣を作ったミツバチを一時的に保護した場合や、研究目的で観察している場合など、ミツバチとのあらゆる関わりが直ちに届出の対象になるわけでもない。具体的な飼育状況によって判断される。
●巣箱を置く前に確認しておく
裏山や庭先に置かれた小さな巣箱。花畑を飛び交うミツバチ。
一見すると、のどかな風景にしか見えない。しかし、そこにはミツバチ同士の縄張りや病気、農作物の受粉、そして法律までが複雑に絡んでいる。
「ちょっと蜂を飼ってみようかな」
そんなときは、巣箱を置く前に、まず都道府県の窓口に確認しておいたほうがよさそうだ。