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「人を殺してみたかった」動機を二転三転させた34歳男に懲役17年 八王子・精神科病院殺人事件
判決が言い渡された東京地裁立川支部(MARODG / PIXTA)

「人を殺してみたかった」動機を二転三転させた34歳男に懲役17年 八王子・精神科病院殺人事件

9月17日、東京地裁立川支部301号法廷。判決言い渡しの直前、被告人(34)は歩いて証言台の前に立ち、深々とお辞儀をした。その姿に驚いてしまったのは、半月前の審理で車椅子に乗っている様子を見ていたからだ。

意外にもしっかりとした足取りの被告人は、東京都八王子市の精神科病院で入院患者の男性(75=当時)の首を絞め殺害したとして殺人罪に問われていた。この日裁判長は、被告人に懲役17年の判決を言い渡した(求刑懲役18年)。

裁判で明らかになった事件の驚くべき動機とは。(ライター・高橋ユキ)

●「誰でもいいから殺したい」

判決によると、被告人は2024年12月23日の夜、入院先である八王子市内の精神病院で、同じく入院していたAさん(75=当時)の首を両手で締め付け、頸部圧迫による窒息で死亡させた。

被告人は犯行直後に自ら病院関係者に「人を殺しました」と申告。駆けつけた警察官にも「殺すつもりだった」「30分ぐらい前です」と話し、その場で身柄を確保された。

捜査段階で被告人は、Aさんへの個人的な恨みではなく「誰でもいいから殺したい」という殺人欲求が動機だったと供述していた。ところが公判では一転、将棋を指している際にAさんから嫌なことを言われて殺意を覚えた、電池交換を頼まれて部屋を訪ねた際に怒りが込み上げた……などと、被害者側にも一定の要因があったとする供述に変化させていた。

●少年期から事件を起こし、複数回の服役

弁護側の冒頭陳述によると、被告人は幼い頃に実父からの虐待を受けていたという。小学2年のころ両親が離婚、母の再婚後は義父からも虐待を受けたとされる。

少年期から器物損壊や窃盗を繰り返して複数回服役。26歳の時にインフルエンザ脳症で精神科に3か月入院した後、介護ヘルパーとして働いた時期もあったが、その後もコンビニ強盗などで服役を重ね、出所後の2022年7月から事件の現場となった病院に入院していた。家族は同居を拒否していたという。

被害者のAさんと同じ病棟で過ごすようになったのは翌23年からのこと。年齢は離れているが、将棋を指す間柄だった。

9月2日の被告人質問において被告人は、そんなAさんに恨みを抱くようになったエピソードを、車椅子に座りながらはっきりした声でこう述べた。

「食事の後片付けをたまにやったり、将棋をしたり、ラジオの電池交換をやってあげたりしていましたが、電池交換した時、Aさんは何の反応も示さない……将棋のときは『おまえさん、いつまでもこんなところにおって、こんなところで死んでいいのか』と毎回言われました。すごく腹立たしかったです」(被告人質問での発言)

●殺害後「自分に動揺した」

Aさんが本当にそのような発言をしていたかどうかは分からないが、被告人は、こうした出来事が積み重なって怒りが高まっていたと語る。

そして事件当日、Aさんから“ラジオの電池交換と電池の向きを変える”ことを頼まれ、何度かAさんの病室に出向いたが、三度目の訪問時にはすでに就寝していたAさんの姿を見て「今までで一番怒りがこみあげた。今までやってきたことが一気にフラッシュバックした。もう殺してやろう」……と思ったのだという。

寝ているAさんの首を絞めて殺害後、看護師に申告したというが、この時の記憶が曖昧だとも語る。

「人を殺すこと自体が初めてで自分に動揺していて、動悸が激しく、頭の中が真っ白で冷静に考えることできませんでした」(被告人質問での発言)

だが事件の日、被告人から殺人の申告を受けた当の看護師は、証人尋問において、この時の様子を詳細に語っている。

「(Aさんの死亡確認後に)被告人に、なんでこんなことをしてしまったのか、なんでAさんだったのかを聞きました。被告人は『前から人を殺してみたかった』『Aさんなら大丈夫だと思った』と答えていたと思います。興奮する様子はなく、落ち着いて淡々としていました」

「被告人は首を絞めるジェスチャーをしながら『首を絞めた』と言っていました。Aさんは目が悪くて、部屋に引きこもりがちで体が弱っていた。そういう意味で『Aさんなら大丈夫』と言ったのだと思いました」

事件当時“頭の中が真っ白だった”という被告人ではあるが、看護師が述べたように「人を殺してみたかった」という発言をした記憶はあるようだ。しかしそれは自暴自棄になっていたゆえの発言であり、本心ではなかったと主張。

事件翌日の取り調べでも混乱の中、聴取に応じたのだと証言した。

「もう頭の中が、人を殺したことに関していっぱいいっぱいで、何が起きてどうなったか全く分からない。自分の立場が悪くなると考える余裕もなかった」(被告人質問での発言)

●歩くようになると「声が出ない」に

その混乱した中での取り調べにおいて被告人は、Aさんに対する恨みに言及することはなく「福岡の事件に影響受けて殺したんだ」と供述していたという。これは約10日ほど前に福岡・北九州市で発生した中学生殺傷事件のことだ。

逮捕当初、この事件に殺人欲求を刺激されたと自ら語っていたものの、公判では一転、「Aさんへの恨み」が動機だったと繰り返す被告人は、第3回公判まで車椅子に乗っていたが、「9月9日の第4回公判では、車椅子を使用せず、自らの足で歩くようになった」と傍聴人らは言う。

一方、これまで法廷で響かせていた“声”が出ない、という事態に。

「車椅子を使わず歩いていた第4回公判、情状の被告人質問に先立ち裁判長から『被告人は声が出なくなり筆談でおこないます』と説明がありました」(目撃していた傍聴人)

その際、すでにフリップが準備されており「はい」「いいえ」「黙秘します」「記憶にありません」などと記載されていたという。質問に応じてフリップを上げたり、あるいは複雑な回答であれば紙に書いてから見せるという方式で被告人質問が繰り広げられた。

変わり続ける被告人のコンディションが気がかりな裁判となったが、判決の日も車椅子を使うことなく、歩いて法廷に現れた。だが声を発する機会はなく、いまだ声が出ないままなのかは分からない。

●完全責任能力を有していたとも認定

裁判所は、被告人が法廷で語っていた“被害者への恨み”ではなく、事件当時語っていた“人を殺してみたい”という欲求が動機であると認定した。

〈被害者に対する恨みなどがあったわけではなく、4〜5年前から人を殺してみたいという欲求があり、本件当時、北九州市で中学生が殺害されたという事件の報道を見たことで、その欲求が高まっていたところ、本件当日、被害者が寝ているところを見て『今いくしかない』と考えた〉

これが当時の被告人の供述概要であるが、防犯カメラ映像や看護師らの証言という他の証拠から「正直に述べていたとみるのが自然」「被告人が被害者を殺害した主たる動機は、人を殺してみたいという自らの欲求を実現することにあった」と裁判所は認めている。

また精神病院で起きた事件ではあるものの、被告人が犯行当時、完全責任能力を有していたとも認定されている。

量刑理由では、被告人がこれまで複数の前科による服役を重ねてきた末に犯行に及んだことに加え、Aさんの遺族に対して慰謝の措置は講じられておらず、遺族の処罰感情も厳しいことが重く見られた。

一方で、犯行直後に自ら通報した点や、更生を支援する態勢が整っていることは、被告人のために酌むべき事情として考慮されている。

裁判長は「甚だ身勝手な動機」「取り返しのつかない結果を招いた」と述べた上で、殺人罪の量刑傾向も踏まえて懲役17年の判決を言い渡し、最後に被告人にこう語りかけた。

「二度と罪を犯さないでもらいたい。しっかりと自分の犯した罪に向き合って、服役を行ってください」

被告人が声を出して返事をすることはなかった。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

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