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店主「心意気や」めし代のない学生「皿洗い30分」でタダ…餃子の王将出町店の35年
「餃子の王将」出町店の店先(左:店主の井上定博さん)

店主「心意気や」めし代のない学生「皿洗い30分」でタダ…餃子の王将出町店の35年

「めし代のない人 お腹いっぱい ただで食べさせてあげます。但し食後30分間お皿洗いをしていただきます。18歳以上の学生さんに限定」

こんな張り紙を玄関先に掲げて、多くの若者に親しまれてきた店が、京都市上京区の学生街にある。「餃子の王将」出町店だ。店主の井上定博さん(67)は「皿洗いした学生の中には、弁護士になった人もおんねんで」と目を細める。

井上さんは23歳のころ「餃子の王将」で働きだし、いくつかの直営店の店長をつとめた後、フランチャイズの「出町店」をオープンさせた。直営店の店長時代と合わせて35年間、「皿洗い30分」で定食をタダにしてきた。店の全盛期には1日8人が皿洗いを申し出ていたが、最近では多くて1日3人ほどだという。

店の近くには、京都大学や同志社大学があり、客のほとんども学生だ。「ほんまは、『皿洗いさせて』と言うた根性に免じて、(皿を洗わなくても)タダでいいと思うとる。衣食住で『食』が一番大事や。金がなくても腹は減る。学生は勉強してえらい人になったらええ」(井上さん)

●「オレもめし代のない時代があったんや」

「若いころ、オレも散々苦労した。めし代のない時代があったんや」。井上さんは20歳で結婚し、すぐに子どもができた。必死になって働いたが、その日の食事に困ることがあった。あるとき、年配の知人から「晩めしを一緒に食べへんか?」と誘われたことがあるという。井上さんはこのことが今でも忘れられない。

「名前も顔も覚えとるわ。自分の子どものように、ようかわいがってくれた。水炊きとか焼肉を食べさせてもろた。もうこの世におらんから、直接、恩返しできへん。せやけど、幸いにも、こういう商売しとるわけやから、今の若い子らに食べさせることになるわな」

この店の特別なところは、「皿洗い」だけではない。余った唐揚げをその場にいる客全員にタダで提供することもあるのだ。井上さんは「サービスちゃうで。心意気や、心意気」と笑う。そんな店は新聞やテレビで取り上げられたり、漫画『取締役 島耕作』(弘兼憲史)のあるエピソードのモデルにもなった。

井上さんは、皿洗いをしたことがない学生たちからも親しまれている。「卒業してからも一升瓶ぶらさげてやって来るやつもおれば、医者になったやつは『おっさん、金に困ったらタダでみたる』と言うてくれる」という。だが、「そんなに感謝はいらん」と話す。

「世の中、自分の子どもさえよかったらいい、他人の子どもはどうでもいいという人が多い。せやけど、他人の子どもも大事にするんや。そうすると、自分の子どもに『徳』が返ってくると信じてる。そうやって、世の中がよくなっていったらええやん」

(弁護士ドットコムニュース編集部・山下真史)

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