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「過重労働を課した上司の不起訴、納得できない」高橋まつりさん母、検察審査会に申し立て…電通過労自殺
会見する高橋まつりさんの母、幸美さん(右)と川人博弁護士

「過重労働を課した上司の不起訴、納得できない」高橋まつりさん母、検察審査会に申し立て…電通過労自殺

広告代理店大手「電通」で、新入社員だった高橋まつりさんが2016年12月に過労自殺した事件。まつりさんの母、幸美さんと川人博弁護士は1月25日、東京・霞が関の厚生労働省記者クラブで記者会見を開き、まつりさんの上司を検察が起訴しなかったことは不当だとして、昨年12月27日に東京検察審査会に申し立てを行ったことを明らかにした。

まつりさんの事件をめぐっては、東京労働局が2016年12月、法人としての電通と上司を書類送検した。しかし、検察は電通を略式起訴(2017年10月に50万円の罰金命令)したが、上司については、起訴猶予としていた。今回の申し立ては、上司についての検察の対応をめぐるものだ。

川人弁護士は「会社の刑事責任は問われても、上司については不起訴処分になることが一般化しているが、悪質な上司の行為を罰することは、労基法遵守などのために重要であると判断した」と話している。

●組織犯罪だから上司の責任は問わないという「扱い」に問題提起

会見で川人弁護士は申し立てを行った主な理由について、次のように説明した。

「まつりさんの上司は、月70時間という三六協定内に労働時間が収まるように指示していました。具体的には、70時間の労働時間に収まるように自己申告することを前提にしていた。でも、会社に70時間以上いたことは、会社のゲートの退館記録でわかります。労働時間との矛盾については、社内で飲食していたことにするよう会議で部下に指示していました」

幸美さんと川人弁護士が共著で昨年12月に出版した『過労死ゼロの社会を—高橋まつりさんはなぜ亡くなったのか』(連合出版)によると、まつりさんは連日にわたり深夜の時間帯に退館、中には徹夜で仕事をして退館しない日もあったことが、会社のゲート通過の退館記録からわかっている。まつりさんのツイートやメールには「70までにしろって言われてるんです。俺の若い時は社内飲食にしてたぞって。。」(原文ママ)と書かれていた。

川人弁護士は、「これ以外にも、違法行為そのものではないのですが、上司は『女子力がない』や『この程度の仕事でつらいというのはキャパがなさすぎる』、『残業時間を支払うのがもったない』などのパワハラやセクハラの暴言もあり、大変悪質です。これが起訴猶予というのは、いかがなものかということ。組織犯罪だから個人の責任を問わないという、従前からの捜査機関の扱いにならった形で行われました。しかし、それでいいのか、という問題の問いかけをしたい」と話した。

●電通の面接で入社希望の女性に「スカートが短い」などセクハラ発言?

この他、川人弁護士は会見で、昨年春の電通の入社試験の役員などの面接において、入社希望の女性に対し、「(高橋まつりさんの件で)報道されている事実が必ずしも事実だとは思っていない」「高橋まつりさんが亡くなったことをどう思うか」「君みたいな容姿がきれいな人がハキハキ意見をいうのが気に入らない」などの発言があったことを明らかにした。

中には「女を武器にしている」「スカートが短い」というような明らかなセクハラもあり、これらの発言は、昨年1月に遺族が電通と再発防止のための取り組みなどについて交わした合意書に違反するとして現在、電通に質問書を提出しているという。

また、昨年複数の電通および電通グループ社員が在職中、死亡するケースが発生しており、これらの中には上司によるパワハラが影響しているという告発も含まれているとした。今後は可能な範囲で真相究明をはかりたいとしている。

元電通社員で、有名ブロガーのはあちゅうさんが昨年、電通時代にパワハラやセクハラを受けていたと告発し、話題になった。記者からどう受け止めたか問われ、幸美さんは「あの会社の中でそういうことがあってもおかしくないと思いました。大人が働いている会社の中で非常識な行いを普通のように存在する、驚く会社だなとあらためて感じました。許されることではないです」と語った。

川人弁護士は、「社長からは再発防止のための取り組みをお伺いしているし、経営者の責任も大事なのですが、高橋幸美さんが意識改革が必要だとおっしゃっているように、パワハラが容易に改善されていないような情報も現在、働いている方からお伺いすることがある。改善には期待していますが、社長ひとりが努力しても解決できない。電通社内の風土を変えていくには、常時監視し、批判していくことが必要です」と話した。

●「日本で娘と同じ苦しみのなかで仕事をする人をどうかなくして欲しい」

以下、会見で幸美さんが発表したコメント全文を掲載する。

「昨年末に、東京検察審査会に審査申し立てを致しました。 株式会社電通に対しては、労働基準法違反で有罪の判決がくだされましたが、娘の直属の上司に対しては不起訴処分になったことについて遺族として納得できません。

 個人の社員の責任を問うことについてはかなり悩みました。

 しかし娘に対して過重な労働を課し、業務をやり遂げるための長時間労働を指示したうえ、実質労働時間を隠すよう示し、その方法も指示していたのは上司でした。その結果娘は過重労働によって過労でいのちをおとしました。

 上司個人を攻撃するというのではなく、このような行為は絶対に許されてはならないと思ったからです。

 上司とは部下の健康と権利を守りながら、部下の能力を最大に発揮できるよう管理する義務と責任があるのではないでしょうか。 たとえ違法労働が会社の風土であったから。とか、何人もの社員が同じような違法な労働をしていたから。という理由で上司個人の行為が許されてよいのでしょうか。

 このことを日本全体に問いかけたいと思います。

 日本で娘と同じ苦しみのなかで仕事をする人をどうかなくして欲しいという遺族としての強い思いです。

 検察審査会の市民代表の方に市民目線で不起訴が妥当かどうかの判断をしていただきたいと思います。」

(弁護士ドットコムニュース)

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