製品に欠陥があったり、契約でトラブルが起きたりした場合などに消費者に代わって、消費者団体が被害の回復を求めて裁判を起こすことができるようになる消費者裁判手続特例法が法案成立から約3年を経て、10月1日から施行される。
正式名称は「消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続きの特例に関する法律」。2013年4月に法案が提出され、同年12月に可決・成立した。「日本版クラスアクション(集団訴訟)」とも呼ばれ、これまで被害回復が困難だった消費者被害に対応する制度として、期待が寄せられている。
消費者裁判特例法とはどんな法律なのか。施行によって、消費者の保護はこれまで以上に図られることになるのか。消費者被害に取り組む正木健司弁護士に聞いた。
●「被害者が泣き寝入りしているのが実情だった」
この法律は、消費者被害の実効的かつ集団的な被害回復を行うことで、消費者の財産的被害を回復し、その利益の擁護を図ることを趣旨としています。
それを通じて、消費の活性化、健全な事業者の発展や公正な競争をもたらすとともに、被害回復を受けた消費者が新たな消費をすることにより、健全な事業者への需要を喚起し、ひいては経済の成長を促すことを目的としています。
これまで多くの消費者は、被害に遭っても返還請求ができることを知らず、そもそも、高齢者の方などは、被害に遭っている自覚さえないことも多く、誰にも相談せず、泣き寝入りをしてしまっているという実情がありました。
被害回復の有力な手段である訴訟についても、相応の費用や労力、時間を要するため、個々の消費者にとっては負担が重く、被害が少額にとどまることも多いという事情がありました。そのため、自ら訴訟を提起して被害回復を図ることには二の足を踏まざるを得ないのが実情だったのです。
●どんな手続なのか?
現実の消費者被害においては、事業者が消費者に対し、画一的な商品やサービスの提供を反復継続的に行うことに伴い、共通の事実上・法律上の原因に基づく同種の被害が拡散的に多発するという性質があります。
そこで、消費者被害の実効的かつ集団的な回復を図るために、二段階型の訴訟制度が設けられました。
まず、一段階目が「共通義務確認訴訟」と呼ばれる手続きです。これは、個々の消費者の利益を代弁できる適切な者として、内閣総理大臣の認定を受けた「特定適格消費者団体」が原告となって、事業者が共通する原因により支払義務を負うか否かの判断を先行して確定させます。「特定適格消費者団体」は、消費生活相談員や弁護士などの消費者問題と法律に関する専門家で構成されています。
そして、「共通義務確認訴訟」で事業者が共通義務を負うことが確定した場合には、個々の消費者が、自分の請求権についての審理・判断を求めて、請求権の有無や金額等を簡易・迅速に決定します。これが二段階目の手続(対象債権の確定手続)です。
このように、個々の消費者は、特定適格消費者団体による一段階目の手続の結果を踏まえて二段階目の手続に加入することができ、しかも、二段階目の手続は特定適格消費者団体に授権して行うため、様々なメリットがあります。具体的には次のような点です。
(1)被害回復に要する時間・費用・労力が軽減されることで、消費者が訴訟手続を躊躇なく利用でき、これまで泣き寝入りせざるを無かった潜在的な消費者被害の回復に資する。
(2)個々の訴訟が五月雨式に提起される場合に比べて、紛争を迅速かつ一回的に解決することができるため、事業者にとっても応訴の負担が軽減する。
(3)裁判所の資源の効率的な運用にも資する。
●どんなケースが想定されるのか?
具体的には、次のようなケースが想定されています。
(1)消費者契約に関する債務の履行請求(ゴルフ会員権の預り金の返還請求に関する事案など)
(2)消費者契約に関する不当利得に係る請求(学納金返還請求に関する事案、語学学校の受講契約を解約した際の清算に関する事案、布団のモニター商法の事案など)
(3)消費者契約に関する契約上の債務の不履行による損害賠償ないし瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求(マンションの耐震基準に関する事案など)
(4)消費者契約に関する不法行為に基づく損害賠償請求(未公開株商法や金地金の現物まがい商法等の詐欺的な投資被害の事案など)
また、同法では、特定適格消費者団体が、消費者からの授権を受けることなく、事業者の財産に対する仮差押命令申立てができるように民事保全法の特例が規定されています。事業者が財産を隠匿するような悪質商法事案においても、被害の回復の実効性が高まるように手当されているといえるでしょう。
今後、本制度が積極的に活用され,これまで泣き寝入りせざるを得なかったような消費者被害が、一つでも多く実効的かつ集団的に解決されることが切に期待されます。