兵庫県川西市は4月16日、20代の女性職員にセクハラをする本荘重弘・元副市長=すでに解職=を止められなかったとして、その場に同席していた上司の50代男性職員を戒告の懲戒処分にした。
毎日新聞(4月16日)などの報道によると、処分されたのは市民生活部の室長級職員(当時)。セクハラ行為は仕事の打ち上げで訪れた二次会のカラオケで行われ、デュエットの際、元副市長が女性の肩に手を回すなどした。副市長はこのセクハラを理由に昨年11月、解職されている。
今回川西市は、女性が今も休職していることを重くみて懲戒処分を決めた。他に20代男性職員もいたが、管理職ではないため処分はしなかったという。
セクハラやパワハラなどのハラスメント行為で、止めなかった「傍観者」の責任をどう考えたら良いだろうか。セクハラ問題に詳しい新村 響子弁護士に聞いた。
●セクハラを止めない管理職「責任果たしていない」
新村弁護士は「ハラスメント行為を傍観して止めなかった周囲に対して、懲戒処分が行われる例は珍しい」と指摘する。
「セクハラの傍観者が処分対象になるかどうかは、その労働者の立場によると思います。社長や目上の上司のセクハラ行為を、若手が止められるかといえば難しい。傍観していたからといって、一律に懲戒処分まで課すのは酷でもあります。
ですが、組織はセクハラが起きないように職場環境を整える義務があります。そして、その責任を負っているのは、職場を管理している管理職などです。そのような責任を負う立場であるにもかかわらず、セクハラを目の前で目撃しながら止めなかったというのでは、責任を果たしたとはいえません」
●ハラスメントの放置、法的責任も
こうしたハラスメント行為の「傍観者」の責任は、裁判でも問われている。
「上司である所長が、先輩から暴言や暴行、一人居残り残業などのハラスメントを受けていたことを知りながら、何らの対応もとらなかったどころか、問題意識さえ持っていなかったことがパワハラ防止義務に違反していると指摘された事例があります(日本土建事件・津地裁平成21年2月19日判決)」
これはパワハラを放置した上司に対するものだが、セクハラを放置したセクハラ相談担当職員について違法行為を認めた判決も出ている。
「セクハラ相談窓口の担当だった課長が、セクハラがあったことを認識していたのに、加害者をかばう発言をして何も措置をとらなかったことが違法行為であるとして、市に損害賠償責任が認められた例もあります(A市職員事件・横浜地裁平成16年7月8日判決)」
セクハラは加害者一人だけの問題ではなく、職場全体の問題として考えていかなければいけないということだ。
新村弁護士は「女性がセクハラを受けることなく働ける環境づくりのために、経営者はもちろんのこと、現場の管理職や人事担当者なども適切な対応をとることが求められているといえる」と話した。