弁護士ドットコム ニュース
  1. 弁護士ドットコム
  2. 犯罪・刑事事件
  3. 「類例ない悪質さ」も死刑にならない理由 江別集団暴行死で当時18歳の"主犯格"に無期求刑…“10年で仮釈放”は本当か

Googleトップニュースでフォロー

フォローの仕方はこちら
Add as a preferred source on Google
「類例ない悪質さ」も死刑にならない理由 江別集団暴行死で当時18歳の"主犯格"に無期求刑…“10年で仮釈放”は本当か
札幌地裁の入っている建物(はっさく / PIXTA)

「類例ない悪質さ」も死刑にならない理由 江別集団暴行死で当時18歳の"主犯格"に無期求刑…“10年で仮釈放”は本当か

北海道江別市で大学生が集団暴行を受けて死亡した事件で、検察側が8月3日、「主犯格」とされる川口侑斗被告(犯行当時18歳)に無期懲役を求刑したことが報じられました。

報道によると、川口被告は2024年10月、江別市の公園で、ほかの5人と共謀のうえ、当時20歳の男子大学生に激しい暴行を加えて死亡させ、現金などを奪ったとして、強盗致死罪などに問われています。

検察側は論告で「類例を見ないほど悪質な犯行」だと述べたうえで、当時18歳で分別がつく年齢であり、刑を軽くする余地はないと指摘したそうです。判決は8月7日です。

遺族は極刑を望むと述べたと報じられており、死刑ではなく無期懲役の求刑に「軽すぎるのではないか」といった声もみられます。簡単に解説します。

●強盗致死罪は「死刑か無期懲役」しかない

強盗致死罪(刑法240条後段)の法定刑は、死刑か無期懲役の2つだけで、有期の懲役刑はありません。

もっとも、事情をくんで刑を軽くする「酌量減軽(しゃくりょうげんけい)」という仕組みがあります(刑法66条)。実際の裁判では、これにより7年以上30年以下の有期刑になることが多くあります。同じ事件の共犯者の1人にも、無期懲役の求刑に対して懲役30年が言い渡されています(双方控訴中)。

つまり今回の無期求刑は、おおざっぱにいえば「重くしろ」という主張ではなく「軽くするな」という主張といえます。

●死刑を求刑することはできなかったのか

死刑を禁じる少年法の規定(51条1項)の対象は、「罪を犯すとき18歳未満」の人です。犯行当時18歳の川口被告(少年法上の「特定少年」)には適用されず、無期刑を有期刑に緩和する規定なども同様です。

したがって、年齢が法的な壁になって死刑求刑がされなかったわけではないといえます。

たとえば、甲府市で令和3年(2021年)10月に起きた放火殺人事件では、犯行当時19歳の被告人に死刑が言い渡されています(甲府地裁令和6年(2025年)1月18日)。

この事件は、被告人が後輩女性に交際を断られたことから、同女の両親宅に侵入して両親を殺害し、同女の妹も殺害しようとしたが未遂に終わり、被害者方に放火して全焼させた、というものです。

●今回死刑が求刑されなかった理由

今回の事件では、なぜ死刑求刑がなされなかったのでしょうか。

今回のケースでは、強盗「致死罪」で起訴されている点が大きいと考えられます。

実務上、刑法240条は、暴行の際に殺すつもりがある強盗「殺人」罪、殺意はなく暴行の結果死亡させれば強盗「致死」罪、と区別されています。今回の起訴は後者です。

なお、今回の激しい暴行の態様を考えれば、殺意があったものとして強盗殺人罪で立件することも、理屈の上では検討されうると思います。ただ、外傷が激しくても、「死亡する危険性を認識し、死亡してもかまわないと認容していた(殺意があった)」という立証は容易ではありません。検察官としては立証の難しさを考え、強盗致死罪で起訴したのではないかと思われます。

被害者が1人の強盗致死では、死刑を選択する事案はみあたりません(東京高裁平成26年(2014年)9月17日判決参照)。また、強盗致死罪では、無期懲役になるのも全体の4分の1程度で、多くは有期刑にとどまるとされています。私が調べた限りでも、殺意のない強盗致死で死刑が言い渡された例は確認できませんでした。

●無期懲役は「軽い」のか

条文の上では、無期懲役でも10年を経過すれば仮釈放がありえます(刑法28条)。ただ、運用は大きく違います。

法務省の資料によると、2024年(令和6年)に仮釈放された無期懲役の受刑者は1人で、服役期間は38年余りでした。直近10年間でみても、仮釈放された人より、刑務所の中で亡くなった人の方がはるかに多くなっています。

有期刑は、どれほど重くても30年で必ず終わります。仮釈放が難しく、多くの受刑者が刑務所で人生を終える無期懲役は、それよりずっと重いといえます。

条文には死刑も定められています。ただ、殺意のない強盗致死で選ばれた例が確認できないため、無期懲役がこの事件で現実にありうる最も重い刑だといえます。

極刑を望む遺族の思いを前に、検察は量刑相場の中では最大限重い求刑をしたものと考えられます。

●量刑相場が「正しい」わけではない

ここまで書いてきたのは、「無期懲役なら十分だ」とか、「これが正しい」とかいうことではありません。

まず、量刑相場、というものを全く無視することはできないでしょう。

たとえば刑の重さが、なんとなく悪い印象が強いから死刑にしよう、などと決まってしまえば、著しく公平性を害することになりかねません。

たまたま担当した裁判官や裁判員によって刑が重くなったり軽くなったりという「当たり外れ」があるのは問題でしょう。

最高裁も、量刑はこれまでの傾向を出発点として判断されるべきだとしています(最高裁平成26年(2014年)7月24日判決)。無期懲役が事実上の上限になっているのには、この公平さの要請もあります。

しかし、だからといって、これまでの量刑が「正しい」保証はありません。

また、法律そのものがそうであるように、量刑がどのようにあるべきかも、社会の流れの中で変わっていくものでしょう。

これまでの量刑傾向が変わっていくことも否定されるものではありません。

今の刑が不当だと感じるなら、その感覚を言葉にすることには大きな意味があると思います。

小倉匡洋(弁護士ドットコムニュース編集部記者・弁護士)

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

この記事をシェアする

Googleトップニュースでフォロー

フォローの仕方はこちら
Add as a preferred source on Google

オススメ記事

編集部からのお知らせ

現在、編集部では協力ライターと情報提供を募集しています。詳しくは下記リンクをご確認ください。

協力ライター募集詳細 情報提供はこちら