東京都杉並区の区議会で「性暴力疑惑」に言及され、その後に無罪判決が確定したにもかかわらず、当時の発言が区のホームページに掲載され続けているとして、トランスジェンダー支援団体「Transgender Japan」元共同代表の浅沼智也さんが8月4日、杉並区と発言をした田中ゆうたろう議員を相手取り、計110万円の損害賠償とホームページ上の動画などの削除を求める訴訟を東京地裁に起こした。
●「性暴力の犯人と決めつけられた」無罪確定までの経緯
訴状によると、浅沼さんは2023年2月15日、LGBTへの理解を深めるための集会に参加した後、都内の同じホテルに宿泊した人物から性暴力を受けたと告発された。
同年11月21日の杉並区議会本会議で、田中議員が次のように発言し、その様子は動画でライブ配信されたという。
「LGBTQ+理解促進講座で講師を務めた映画監督の浅沼智也氏の性暴力疑惑が浮上しております。同講座は直ちに中止すべきと考えますが、見解を求めます」 「性暴力疑惑が浮上している浅沼智也氏」
また、杉並区はこれらの発言をそのまま議事録としてホームページに掲載したほか、「区議会だより」にも同様の発言を掲載し、区内約13万戸に配布するとともに、ホームページでも公開したという。
●無罪判決が確定「表現を保護する価値はない」
その後、浅沼さんは2024年3月14日に逮捕され、暴行罪で起訴されたが、青森地裁は2025年1月16日、「暴行を加えたと認めるには合理的な疑いが残る」などとして無罪判決を言い渡し、この判決は確定した。
訴状では、「区議の発言で性暴力の犯人と決めつけられ、杉並区が区議の発言を広く世に拡散したことにより、社会的評価を著しく傷つけられた」などと主張。
さらに、刑事裁判で無罪判決が確定していることから、区議の発言について「表現を保護する価値はまったくない」と指摘。人格権に基づく妨害排除請求として、ホームページ上の関連する記載や動画の削除を求めている。
●「刑事裁判が終わっても社会的な裁判は終わらない」
浅沼さんはこの日、東京・霞が関の司法記者クラブで記者会見を開き、これまで杉並区に対し、動画の削除などを求める要望書を出してきたものの、応じてもらえなかったため提訴したと説明。そのうえで、次のようにうったえた。
「無罪判決が確定した後も、あたかも私が性暴力をおこなったかのような情報が載り続けることは適切なのでしょうか。 私は、今回の経験を通して、刑事裁判が終わっても社会的な裁判は終わらないと痛感しました。公的機関や公職者の情報発信のあり方について司法判断を求めたい」
●杉並区「訴状が届いていないのでコメントできない」
杉並区は、弁護士ドットコムニュースの取材に対し、「区としては、訴状が届いていないのでコメントできません」としている。
田中議員にもコメントを求めており、回答が届き次第、追記する。