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「障害者はけっこう良い戦力になる」初めて障害者を雇う企業へ「全盲弁護士」らが助言
大胡田誠弁護士(左)と関哉直人弁護士

「障害者はけっこう良い戦力になる」初めて障害者を雇う企業へ「全盲弁護士」らが助言

障害がある人の社会参加を目的とした「障害者雇用促進法」が改正され、今年4月から新しいルールが適用されるようになった。障害者雇用への追い風となることが期待されるが、「どんな仕事を任せればいいのか?」「かえって企業の負担になるのでは?」といった不安を感じている企業も少なくないようだ。

企業のそんな不安や疑問を解消しようと、法律のポイントや具体的な対処法をQ&A形式で分かりやすく解説した本「今日からできる障害者雇用」(弘文堂)が、このほど出版された。著者の1人で、自身も「全盲」の視覚障害者である大胡田誠弁護士は「障害者はけっこういい戦力になる」と語る。

企業が障害者雇用をうまく進めるためのコツは何か。大胡田弁護士と、共著者で、障害者の権利を守るために活動する関哉直人弁護士に話を聞いた。(取材・執筆/瀬戸佐和子 撮影/亀松太郎)

●「地に足の着いた、実践的で役に立つ本」

―—今回出版された「今日からできる障害者雇用」はどんな本なのでしょうか。類書との違いや特徴を教えてください。

大胡田「まだ1人も障害者を雇ったことがない中小企業のおやじさんも、この本を読んで、『うちでも雇ってみるか』と思ってもらえるような本を目指しました。読みやすさにもこだわりました。障害者や法律に対するハードルを下げて、『ページを開いてみようかな?』と思える本になったのではないかと思います。

私自身、全盲という障害がありますが、障害を持っている仲間が社会の中で仕事をして、お金を稼いで自立しているケースは必ずしも多くありません。生活保護を受けて、生き甲斐もなく日々を過ごしている人も少なくありません。

人が社会とつながる上で大切なのは、教育と仕事だと思います。法律改正を追い風にして、専門知識や特別な能力がない障害者でも仕事を持って活躍できる、そんな社会にしたいなという思いがこもった本です。

関哉「地に足の着いた、実践的で、本当に役立つ本にしようとこだわりました。弁護士だけで本を作ると、理屈っぽくなったり、単に法律の紹介をするだけの本になり、企業の雇用担当者にはとどきません。

そこで、企業側の視点も入れようということで、企業の雇用担当者や障害者の就労支援の専門家にも執筆に加わってもらい、障害者雇用にあたって現実的にやらなければいけないことや必要な知識を、すべて一冊にまとめている点が、類書と大きく違う部分だと思います」

●「視覚障害者は、車の運転以外なら何でもできる」

―—障害者を雇うにあたって、不安を感じる企業もあるのではないでしょうか。障害者雇用をうまく進めていくためのポイントを教えてください。

関哉「企業にはまず、障害者雇用のメリットを知ってもらうことが大切だと思います。多様な人が働くことで、職場の雰囲気が明るくなることや、仕事をこまかく分割して、障害のある人に適した仕事をお願いすることで、社内で仕事が循環することが考えられます。うまくいっている会社を見学するのもいいでしょう。

また、今はジョブコーチや障害者への支援者など、外部からのサポートを受けることもできます。大胡田弁護士もサポートを受けながら働いていますし、企業の人が『自分たちだけでやらないといけない』と抱えこまないことも重要です」

大胡田「障害者は、その人に合ったちょっとした工夫や周囲の思いやりがあれば、けっこう良い戦力になると思います。例えば視覚障害者は、点字で文字を読み書きする機械や、パソコンの文字を音声で読み上げるソフトといった支援機器を活用したり、周囲の人々が適切にサポートすることで、『車の運転以外ならなんでもできる』というのが、私の実感です。

この本では、身体障害や知的障害、精神障害などの障害それぞれについて、どんな特徴があってどんな配慮が必要なのかを分かりやすく解説しています。障害の特徴や必要な配慮を知ることで、雇う上でのハードルも下がると思います」

●障害者が悩みを伝えやすくするのも大事

―—本の中では、障害者が同僚からいじめを受けた際の対処法も解説されていました。障害者が、いじめやパワハラのターゲットになりやすいといった傾向はあるのでしょうか。

関哉「障害者の中には、今までいろいろな場面で認められず、自信を持てないまま生きてきた人が少なくありません。そして自信を持てないまま会社に入り、嫌なことを言われても、『言い返したら会社を辞めなければならなくなるかもしれない』と不安に思い、言われるがまま我慢してしまうために、ターゲットになりやすいのかもしれません。

また、周囲に『障害があるから働けない』と思われないために、『絶対に障害を言い訳にしない!』とすごく頑張ってしまう人は多いです。すると、たいていのことはできてしまうので、『障害があってもこんなにできるんだ』と回りから思われて、配慮が得られなくなっているケースもあります。でも実際、本人はかなりのストレスを抱えています。

障害があるということを現場の人が理解して、もうすこしやさしい言い方をしようとか、分かりやすい表現で伝えようとか、具体的な業務の中での配慮と、気持ちの上での配慮が必要です。また、障害者のそばに、困ったらすぐにSOSを出せる信頼できる人を置くことも必要でしょう」

大胡田「企業に理解を求めるだけではなく、障害者への教育もすべきだと思います。企業で働くということは、必ずしも全部自分1人でやるのが偉いのではなくて、自分が困っていることや、ストレスを感じていることを周囲の人に伝え、チーム全体で成果を上げることも、社会人としての能力なんだよ、と伝えることも必要ではないでしょうか」

●「障害者が働く姿を見せることが、一番の説得力」

―—障害者雇用を促進するために、どんなことが必要だと思われますか。

大胡田「実際に企業で障害者が働いている姿を見せることが、一番の説得力になるはずです。私はラッキーなことに全盲の弁護士ということで注目していただきやすい立場にあります。私が弁護士としてきちんとした仕事をすることが、ひいては障害者が社会で働けることのアピールになり、障害者雇用を進める1つの手段になると思っています」

関哉「障害がある、という部分で、一歩が踏み出せない人もいるかもしれませんが、本当は人それぞれに得意不得意があるのが当たり前で、障害のあるなしに関わらず、誰だってなんらかの配慮がなければ働けません。

今は障害者の雇用義務について、多様性などの社会的なメリットを強調せざるを得ない状況ですが、いずれは女性の社会進出のように、障害者が社会で働くことが当たり前になる時代がくると信じています。


人によっては、『障害者にどう接したらいいか分からない』という人もいるかもしれません。そういう人には、『まずは接してみてください』とアドバイスしたいですね。実際に接することで、障害者に対する見方は変わると思います。それを実感できることも、障害者雇用の意義の1つではないかと思います」

(弁護士ドットコムニュース)

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