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退職者に激怒するより「競合転職禁止」規定を作るほうがいい――この意見は正しいか?
優秀な社員ほど他社に引き抜かれる可能性が高い

退職者に激怒するより「競合転職禁止」規定を作るほうがいい――この意見は正しいか?

サイバーエージェントの藤田晋社長が書いた「私が退職希望者に『激怒』した理由」というタイトルの記事が、大きな話題を呼んでいる。

藤田社長は、新事業の立ち上げという責任あるポジションを任せていた若い社員が、「アルバイトを辞めるかのように」仕事を放り出したため、社内全体に伝わる形でわざと「激怒してみせた」のだという。

藤田社長はまた、社員が辞めたきっかけが「競合からの引き抜き」だったことが、激怒の「もう一つの理由」だと明らかにした。「優秀な人材を競合には渡さない、という毅然とした態度も必要」と、持論を展開し、「激怒したという噂は社内を駆け巡り、その効果は絶大なもの」だったと強調した。

一方ネットでは、競合他社への転職を防ぐためならば、一定期間は競合他社に転職できないという人事規定をつくればいいのではないか、といった指摘も出ている。人事規定や雇用契約に「退職後、一定期間は競合他社に転職してはいけない」と定めたら、法的に有効なのだろうか。企業法務にくわしい高島秀行弁護士に聞いた。

●「競業禁止契約」を結ぶケースは多い

「有能な従業員がライバル企業に転職すれば、自社にとってのマイナスであると同時に、ライバル企業にとってプラスになるので、『二重の損失』になります。

また、自社の顧客が、その従業員に『付いて行く』という事態も考えられます。さらに、新商品の情報やノウハウその他の営業秘密を、ライバル企業に漏らされるという恐れもあります。

そこで、『退職後、競業他社へは就職しない』という、いわゆる『競業禁止契約』を企業と従業員が結ぶケースは多いです」

そうした契約を結べば全て解決・・・かというと、そこまで単純な話でもなさそうだ。高島弁護士は続ける。

「しかし、この競業禁止契約は、従業員の転職先を制約し、憲法で保障された『職業選択の自由』を制限することになります。契約が無制限に有効となるわけではありません」

●従業員の「立場が上」だと有効になりやすい

実際に、競業禁止契約について争われた裁判例をいくつかみてみると、有効とされたのは、元の会社の商売にかなりの実害を与えたケースばかりだ。一方で、契約が「無効」とされたケースもかなり存在するのが実情だ。

それでは、契約が「有効」かどうかは、どうやって決まるのだろうか?

「過去の判例では、次の3つのポイントによって、競業禁止契約が有効か無効かを判断しています。

(1)在職中の地位

(2)競業禁止となる業務、地域、期間

(3)代償措置」

それぞれ、どういうことだろうか?

「(1)は、その従業員がどれだけ重要な仕事に携わっていたか、という話です。

たとえば、従業員の役職が高かったり、新商品の開発を担当していたり、企業秘密を知っている立場の従業員であれば、競業禁止契約が『有効』となりやすいです。

一方で、立場が下の事務員や作業員などの従業員であれば、契約は『無効』になりやすいです」

●「代償措置」はあるのか?

「(2)については、地域・業務・期間が限定されていると、競業禁止契約が『有効』となりやすく、限定されていないと『無効』になりやすいです。

また、(3)については、競業他社に就職しないことの対価として退職金や特別の手当てを従業員に支払うなどの措置が取られているかどうかで、この代償措置がないと、競業禁止契約が無効とされる可能性が高くなります」

高島弁護士はこのように解説していた。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

高島 秀行
高島 秀行(たかしま ひでゆき)弁護士 高島総合法律事務所
「ビジネス弁護士2011」(日経BP社)にも掲載され、「企業のための民暴撃退マニュアル」「訴えられたらどうする」「相続遺産分割する前に読む本」(以上、税務経理協会)等の著作がある。ブログ「弁護士高島秀行の遺産相続・遺留分の解決マニュアル」を連載中。 https://souzoku-soudan-bengoshi.jp

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