「それでもボクはやっていない」――痴漢の冤罪(えんざい)被害を描いた映画が大きな反響を呼んでから7年が経つが、いまだに痴漢の冤罪事件はなくならない。3月には、兵庫県の電車内で痴漢をしたとして、迷惑防止条例違反に問われた男性に対し、神戸地裁尼崎支部が無罪判決を言い渡した。男性は一貫して無実を訴えていたという。
無実にもかかわらず、痴漢の容疑で逮捕されたりすれば、社会的信用を失う可能性がある。そのため、朝の通勤ラッシュで痴漢に間違われないよう、「つり革を両手で持つ」「女性から離れて乗車する」など徹底的な対策をしている男性もいる。
しかし、どんなに気をつけていても、あらぬ罪を着せられる可能性はゼロではない。もし身に覚えがないのに痴漢を疑われた場合、どう対応すれば良いのだろうか。全国痴漢冤罪弁護団の事務局長をつとめる生駒巌弁護士に聞いた。
●駅事務室に行っても、言い分は聞いてもらえない
「残念ながら、痴漢に間違われた場合、あらぬ罪を着せられないようにする、絶対的に有効な方法はありません」
生駒弁護士はこのように述べる。痴漢の疑いを晴らすのは、簡単なことではないようだ。現実的な対処方法として、どんな選択肢があるのだろうか。
「現実問題として、駅などで痴漢に間違えられた場合、いったん駅事務室に行ってしまうと、ベルトコンベアーに載せられるように警察署に連れて行かれ、そのまま現行犯逮捕の手続きを取られてしまいます。
自分の言い分を聞いてもらおうとか、被害を訴えている女性と話し合いをしたいとか考えても、駅の事務室でそれができる機会は、絶対にありません。したがって、駅事務室に行かないことがまず重要です」
●堂々と立ち去るのがポイント
それは、逃げ出せということだろうか?
「いいえ、無理やり逃げ出そうとすることは、お勧めできません。
混雑した駅などで無理やり逃げ出そうとすると、他人にぶつかってけがをさせるなど、トラブルを拡大するだけです。
そのような場合には、相手の女性に自分の名前や連絡先を告げ、できれば名刺などを渡して、堂々と立ち去ることをお勧めします」
●できるだけ早く弁護士に連絡を
もし、状況的に、立ち去ることができそうになかったら、どうすればいいだろう?
「相手の女性に手をつかまれたり、周りに人だかりができてしまって、立ち去ることが難しいこともあります。
そのような場合には、知っている弁護士がいれば、その弁護士に連絡をとって、できるだけ早く現場に来てもらうこと。そして、弁護士が来るまで、現場から動かないことをお勧めします。
ただ、それもできず、駅事務室や警察署に連れて行かれてしまった場合には、できるだけ早く最寄りの弁護士会に連絡して、当番弁護士の出動をお願いすべきだと思います」
落ち着いて、自分の言い分をしっかりと聞いてもらうためには、専門家である弁護士と連絡をとることが重要――。生駒弁護士はそう強調していた。