インフルエンザが全国的に猛威をふるっている中、弁護士ドットコムに「感染しているのに上司から出勤するよう命じられている」という相談が寄せられました。
相談者の会社では、インフルエンザに感染した場合、「発症後5日かつ解熱後2日は就業禁止」という就業規則になっているそうです。しかし、上司は人手不足を理由に、発熱がある相談者にも出勤するよう命じました。相談者は会社に相談しても無駄だろうと諦めています。
完治していない状況では十分なパフォーマンスが発揮できませんし、社内での感染拡大なども懸念されますが、それでも上司の命令である以上出社しないといけないのでしょうか。今井俊裕弁護士に聞きました。
●インフルエンザに感染した場合のルールはどうなってる?
今年は例年にないほどインフルエンザの感染が拡大しているようです。インフルエンザは大きく分けて、季節性のインフルエンザと、新型インフルエンザに大別されるようです。現在新型インフルエンザの流行は確認されておらず、今回のケースは季節性のインフルエンザに感染した方であるとの前提で説明します。
労働者の安全や健康を保護するために会社が遵守すべき最低基準を定めた法律に「労働安全衛生法」があります。
同法では、労働者が結核感染者である場合は就労させてはならない、と規定しています。違反すれば会社に罰則が科されます。しかし、同法ではインフルエンザ感染者については特に就労を禁止する規定はありません。
労働関係に限定せずに広く一般的に感染症を予防したり患者に施す医療に関して規定として、「感染症予防法」という法律があります。この法律では、新型インフルエンザ感染者については一定の業務について一定の期間にわたって行政が就業制限の措置をとる制度が規定されています。しかし季節性のインフルエンザに関する規定はありません。
そこで季節性のインフルエンザに感染した従業員の扱いについては、「労働契約法」や「就業規則」の内容に従うということになります。
労働契約法では、「労働者の生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう必要な配慮をしなければならない」とされています。これは感染した当の従業員に対してもですが、その職場の他の同僚従業員の健康も配慮しなければならない、ということです。
季節性とはいえインフルエンザはいわゆる一般的な風邪に比べ感染力も強く、その症状も重篤な傾向にあります。
やはり感染した従業員の出勤を認めるべきではなく、むしろ積極的に出勤禁止の措置をとるべきでしょう。就業規則で出勤禁止の措置が規定されているならばなおさらです。
上司に出社を命令されたとしても、従業員に出勤する義務は認められないでしょう。
●一般的な風邪の場合は?
では、季節性のインフルエンザではなく、ごく一般的な風邪の場合はどうでしょうか。
その症状の程度やその従業員が従事している業務の内容、周囲にいる同僚の人数や職場環境等の具体的な事実関係も考慮されるでしょうが、基本的に病気に罹患している従業員がそれを理由として欠勤を申し出ている以上は、会社はそれを尊重すべきでしょう。
もちろん医師の診断書等を後日出勤してきたタイミングで確認する等のことを会社のとる措置として許されるとは思います。
またそのような場合の欠勤で、従業員が仮に有給休暇を使わない、あるいは使える有給休暇が残っていない等の事情があるならば、欠勤日は無給とされてもやむを得ないと思います。会社の責めに帰すべき事由で就労を制限したわけでもないので、会社としてもその従業員に対し休業手当を支払う義務もないでしょう。