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「風俗勤めの過去」をもつ人たちの不安…バレたら解雇や内定取消なの?
画像はイメージです(mits/PIXTA)

「風俗勤めの過去」をもつ人たちの不安…バレたら解雇や内定取消なの?

学生時代に風俗店で働いていたことが内定先の企業に発覚して、「内定取消や解雇される可能性はあるのでしょうか?」と心配する相談が弁護士ドットコムに寄せられている。

相談者は現在ではすでに風俗勤務をやめているそうだが、内定先に匿名の文書が届いたことから、過去がバレたという。

この「密告文書」には、勤務先の風俗店で使われていたネットの宣材写真や、下着姿の写真まで含まれていたそうだ。

ほかにも、弁護士ドットコムには、過去の風俗勤務が就職に影響しないか不安に思う人からの相談が複数寄せられている。

こうした理由で、企業が内定を取り消したり、入社後に解雇したりできるのだろうか。労働問題にくわしい黒柳武史弁護士に聞いた。

●内定取消や解雇には厳しい条件がある

まず、企業が従業員を採用したあとに、都合が悪くなったからといって、無条件に採用内定の取消しや、解雇ができるわけではありません。

内定取消に関しては、判例上、企業が、採用内定当時に知ることができず、また、知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取り消すことが、客観的に合理的と認められ、社会通念上相当と認められる場合に限られます。

さらに、解雇については、入社後に従業員を辞めさせることになるので、内定取消の場合よりも、さらに厳しく、客観的に合理的な理由の有無や相当性の有無が判断されることになります。

今回のケースでは、採用内定以降に風俗的勤務の経歴が発覚したことが、内定取消や解雇における客観的に合理的な理由として認められるのか、また、これにより内定取消や解雇をおこなうことが相当といえるのかが問題となります。

●風俗勤務の過去がある女性の「懲戒解雇」が無効になった裁判

この点に関して、風俗店での勤務経験の不申告を理由に、パチンコ店を経営する企業が女性従業員を懲戒解雇し、その解雇の有効性が裁判で問題となったケースがあります(岐阜地裁平成25年2月14日判決)。

このケースでは、ある風俗店のホームページに従業員の顔写真が掲載されているのを企業側が見つけたことから発覚しました。

裁判所は、従業員が風俗店での勤務歴を履歴書に記載しなかったことをもって、懲戒解雇事由に該当すると判断しました。

この判断には次のような事実が考慮されています。

・「風俗店での勤務歴が企業側に判明した場合、採用されることはないであろうということを危惧し、雇用契約の締結に際してあえて本件職歴を本件履歴書に記載しなかった」こと。

・パチンコ店を経営する企業側が「風紀を乱すような行為があった場合に警察当局による指摘を受けないために、…風俗店勤務の従業員の存在が客の間で噂になることを防止する必要がある」こと。

しかし、風俗店で働いていた期間は約2カ月半と短く、ホールスタッフとして働く間に具体的な支障もなかったうえに、従業員はアルバイトに過ぎなかったことなどを踏まえて、風俗勤務歴の不記載によって、企業秩序が具体的に侵害されたことがあったとしてもその程度は軽微であったことなどとして、結論的に、解雇は無効であると判断しています。

●採用時に積極的に申告をもとめられていなければ、解雇や内定取消は無効の可能性が高い

この裁判例を踏まえると、企業から、過去の職歴について積極的に申告を求められているのにこれを隠すようなことがあれば、経歴詐称により懲戒事由に該当したり、また、事案によっては、採用当時知ることができなかった事情が判明したとして、内定取消の有効性が認められる可能性はあると思われます。

しかし、さらに解雇の有効性が認められるためには、その経歴詐称により、企業側に具体的な支障が生じており、その程度が重大であることを企業側が証明する必要があると考えられます。

他方で、企業側が採用面接において、過去の職歴を重要視しておらず、積極的に申告を求めていなかったような場合には、経歴詐称とも言い切れません。

この場合には、過去に違法な業務に関わっていたということであればともかく、企業側にとって望ましくない業務に従事していた(今回のケースでは風俗店勤務)ということが発覚したとしても、内定取消や解雇の有効性は否定される可能性が高いと思われます。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

プロフィール

黒柳 武史
黒柳 武史(くろやなぎ たけし)弁護士 賢誠総合法律事務所
京都府出身。2007年大阪弁護士会で弁護士登録。2020年京都弁護士会に登録換え。取り扱い分野は、労働事件を中心に、建築・不動産に関する事件や、一般民事・家事事件など。

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