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上司にチェンジ、フリーダイヤル廃止、忘れる…カスハラ対策「三種の神器」にも限界 疲弊する現場の実態
画像はイメージです(takeuchi masato / PIXTA)

上司にチェンジ、フリーダイヤル廃止、忘れる…カスハラ対策「三種の神器」にも限界 疲弊する現場の実態

カスタマーハラスメント(カスハラ)も、セクハラ同様、かなり世間一般に浸透してきた。しかし、カスハラの被害が一向に減ることはない。飲食店などでの接客業が被害を受けやすいが、コールセンターもカスハラ被害を受けることが多い業種だ。

筆者も大手電機メーカーのコールセンターでオペレーター業務に就いていた経験がある。そこでどのようなカスハラ被害を受けたのか、どのような対策が取られていたのかを振り返ってみる。(ライター・篁 五郎)

●高齢男性はいきなり怒鳴ってくる

筆者の業務は製品のサポートやクレーム対応、リコールの問い合わせなどの一時受付で、顧客の話を聞いて担当部署へ割り振る役割だった。顧客の話に耳を傾けるのが大切な業務だ。

業務中に非常に困ったのが「過度のクレーム」だ。顧客の話を聞く仕事のため聞き流すことが難しかった。

受電をしたらいきなり「お前のところの製品はどうなっているんだ!」と怒鳴り声で出てくるのであっけに取られてしまう。間髪入れずに「聞いているのか!」とまた怒鳴ってくるので慌てて返事をするしかない。

要求は製品が故障したから返金を求めてくるのがほとんどだ。しかし、担当部署へ転送すると単なる操作ミスだったことが多い。

こうした怒鳴ってくるクレームは高齢男性がメインで、中には自分から「俺は昔会社で部長(取締役)だった」とそれなりの地位にいたと言ってくる顧客もいた。

●怒鳴らないけどやっかいな「ネチネチ系」クレーマー

次に多いのが、怒鳴ったり威圧したりするような態度ではなく、ずっと製品への不信感を伝えてくる顧客で、筆者が在籍していたコールセンターでは「ネチネチ系」と言って、怒鳴ってくる顧客よりも嫌われていた。

ネチネチ系の特徴は、製品の故障やサポートについてクレームはつけるが、自分からは何も要求してこないことだ。オペレーターが「どうしてほしいのか」と聞いてもはぐらかす。

何を聞いても「あなたの方で察して」としか言わないし、製品のことを聞いても「製品のことを聞きに来たけどあなたの態度に誠意を感じない」と言ってくるので埒が明かない。

謝罪をすると「おたくの製品はね」と言ってくるから話を聞くものの、そうしたらまた『あなたの聞く姿勢が悪い』と言ってきて同じことの繰り返し。怒鳴ってくる客ならそれなりに対応できるが、ネチネチ系は声のトーンは普通のため困った記憶しかない。

中には言葉の揚げ足を取ってきて「あなたの今の一言で不快な気分になった」と言って、クレームを付けてくることもある。ネチネチ系のクレーマーは30代から40代とみられる男女が多かった。

筆者は被害に遭っていないが、女性のオペレーターだとセクハラ行為を伴うカスハラも後が絶えない。受電して名乗ると急にわいせつな言葉を話し、性的な質問もされる。

現在ほとんどのコールセンターでは、そういった顧客からの電話はすぐに切断していいと指導しているようだが、言われた側が不快な気分になるのは言うまでもないだろう。

●会社も対策「上役にすぐチェンジ」「フリーダイヤル廃止」

会社も顧客からのクレームに対して対策を講じている。

筆者の部署では、オペレーターが危ないとサインを出したら上役が対応を代わるシステムになっていた。オペレーターからSV(スーパーバイザー)に代わり、SVでダメならグループリーダー、そして最後はセンター長が対応することもある。

怒鳴ってくる顧客は、上役に代わると大人しく矛を収めてくれるそうだ。ネチネチ系と言われる顧客も、最初は揚げ足取りをしてくるものの、肩書きが上がっていくと自分の要求を素直に話してくるらしい。

センター長でも収まらないクレームは本社の番号を伝えている。対応中にグループリーダーが本社の受付にクレーム客の特徴と内容を伝えて、担当部署へ転送するように連絡するという仕組みが出来上がっている。

他のコールセンターでは、電話番号を通話料無料のフリーダイヤルから有料となるナビダイヤルに変更をした事例がある。通話料を払ってまでくだらないクレームをつける顧客は少ないためカスハラの入電が大きく減ったそうだ。

●会社からのアドバイスは「(カスハラを)早く忘れろ」

筆者の部署は顧客と直に接する業務ということもあり、センターの中でも一番カスハラを受けるため、入社した時点で会社からアドバイスを受けた。

それは「(カスハラを)早く忘れろ」である。引きずると精神的に追い詰められて仕事にならなくなるので、どのような方法でも構わないからストレスを発散してほしいと言われた。

電話でのクレームは相手の顔が見えないため普段よりも尊大な態度で接してくる顧客は非常に多い。個人や会社でのカスハラ対策にも限界があるので、業界全体で取り組む仕組み作りが必要なのかもしれない。

【筆者プロフィール】篁 五郎(たかむら ごろう):神奈川県生まれ。接客業、カスタマーサポートなど非正規雇用を転々とした後、フリーライターに転身。現在は取材記事を中心に社会や政治の問題、医療広告、スポーツ、芸能、グルメと雑多なジャンルを執筆している。

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