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夫に自室を24時間録音されていた、リモートワークの情報漏洩の恐れ…法的な問題は?
違法性は?(Fast&Slow / PIXTA)

夫に自室を24時間録音されていた、リモートワークの情報漏洩の恐れ…法的な問題は?

リモートワークをしている部屋を24時間録音することは違法ではないのかーー。裁判で自室の録音を提出された女性から弁護士ドットコムに相談が寄せられました。

相談者は民事裁判で夫から証拠として音声データを提出されました。ところが、その音声は夫が相談者の自室にICレコーダーをしかけ、24時間録音して入手したもののようです。

相談者はリモートワークをしており、社則では家族であっても勤務時間中は出入り禁止となっています。

「プライバシーを全く無視した盗聴です。しかも会社にも情報漏洩という損失を負わせてしまう可能性がある」と相談者は言っていますが、この行為は法的にどのような問題があるのでしょうか? 澤藤亮介弁護士に聞きました。

●法的責任を問うことはできるか

ーー夫の行為に対して、刑事、民事ともに法的責任を問うことはできるのでしょうか

まず、刑事上の罪になるかですが、盗聴行為自体が刑法上の罪になることは原則としてありません。もっとも、別居中の妻の家に侵入してICレコーダーを設置したなどの場合は、住居侵入罪を問われる可能性があります。

次に、民事上、ICレコーダーによる盗聴行為がプライバシー侵害などの慰謝料の対象となるかが問題となります。

これは盗聴行為の方法や目的などの個別事情により結論が分かれるところですが、本件と似たような行為(相手方配偶者が自宅に一人でいるときに自宅内にICレコーダーを仕掛ける行為)が、違法と判断され慰謝料の対象となった事案もあります(東京地裁平成25年9月10日判決。なお、この事案では、プライバシー侵害ではなく、婚姻関係の基礎となる信頼関係を傷付けたことが違法と判断しています)。

また、夫は民事訴訟の証拠として音声データを提出してきたとのことですので、その訴訟内で「証拠として使用できない」と主張することも考えられます。

これはいわゆる証拠能力の問題であり、刑事裁判では証拠として使用することにつき厳しいルール(違法収集証拠の排除)がありますが、それに比べ民事訴訟では緩やかに運用され、著しく反社会的な方法で取得された証拠でない限り証拠として採用される傾向にあります(東京高裁昭和52年7月15日判決など)。

本件でも、妻側が訴訟内で音声データの証拠能力を争う余地はあるかと思われますが、証拠の取得方法が著しく反社会的と裁判所に判断されない限り、証拠として排除される可能性は低いのではと考えられます。

●情報漏洩に対する責任追求の可否は?

ーー相談者はリモートワークをしており、業務上の秘密漏洩を危惧しています

妻の勤務先との関係では、企業秘密などの情報漏洩に対する責任追及の可否が問題となるでしょう。

まず、妻に関しては就業規則(秘密保持規定)や秘密保持誓約書等への違反による懲戒処分などが考えられますが、本件は妻が夫に盗聴された事案であって、妻には情報漏洩についての故意過失がないことは明らかであり、一般的には懲戒処分は難しいのではと思われます。もっとも、夫にICレコーダーで盗聴された事実を知るに至ったのであれば、速やかに勤務先にその旨を報告するべきでしょう。

次に、夫に関しては、妻の勤務先との関係では何らの労使関係や契約関係もないため、妻の勤務先が夫に対し、就業規則などによる賠償請求(契約責任)を検討することは困難でしょう。

もっとも、夫が盗聴によって得た企業秘密などを第三者に漏洩させ、それにより妻の勤務先に何らかの損害が発生するなどした場合、民法上の不法行為や不正競争防止法違反に基づく損害賠償請求がなされることが考えられます。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

プロフィール

澤藤 亮介
澤藤 亮介(さわふじ りょうすけ)弁護士 向陽法律事務所
東京弁護士会所属。2003年弁護士登録。2010年に新宿(東京)キーウェスト法律事務所を設立後、離婚、男女問題、相続などを中心に取り扱い、2024年2月から現在の法律事務所でパートナー弁護士として勤務。自身がApple製品全般を好きなこともあり、ITをフル活用し業務の効率化を図っている。日経BP社『iPadで行こう!』などにも寄稿。ご相談のご予約は、web上のカレンダーで空き状況をご確認いただきつつweb上で完結することができます。

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