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日本の職場を支えた「イヌ型」人材は絶滅するのか、次世代を生きる「ネコ型」
StudioFuntas / PIXTA、右はTOMO / PIXTA

日本の職場を支えた「イヌ型」人材は絶滅するのか、次世代を生きる「ネコ型」

働き方改革の影響で、会社員の副業・兼業やフリーランスなど、「自由な働き方」への注目が集まっている。一方で、長期にわたる雇用が保証された「正社員」に対するこだわりは労使双方にあり、日本の多くの企業では、正社員を核として組織の運営がなされている。

今後、さらなるデジタル化による仕事のやり方の変化により、日本の雇用にも大きな変化がありそうだが、どう変わっていくのか。

組織論が専門の太田肇・同志社大政策学部教授は、「職場の共同体に適合する形で生きてきた『イヌ型』の人は激減して、自由に生きる『ネコ型』の人が活躍する時代がやってくる」と語る。(編集部:新志有裕)

●デジタル化の進展で、組織に人を囲い込むことが困難に

ーー組織論の研究者として、今の変化をどうみていますか。

私はこれまで、日本の組織を共同体型組織と呼んできました。最も大きな特徴は閉鎖的だということですね。そこでは強い同調圧力が働きます。

しかし、デジタル化によって、組織の中に囲い込もうとすること自体が困難になっています。具体的にはテレワークの進展ですね。

経営者や管理職の人たちは、旧来の階層型組織の枠組みをなんとか維持しようとしているように見えますが、デジタル化の進展によって、組織は、個人を囲い込んで管理するのではなく、個人が働く場を提供する「インフラ」になると考えています。シリコンバレーのスタートアップや、GAFAと呼ばれる巨大IT企業はまさにそうですね。日本でもリクルートなどは昔からそれに近いものがあります。

そういう流れで、雇用ではなく、フリーランスとしてやっていこうという人が増えています。市場価値の高い人ほど組織から出ていき、旧来の組織が空洞化していく兆候が見えています。

これまでは制度的に雇用労働者とフリーランスの落差があまりにも大きかったのですが、政府がフリーランスに対する保護を正社員と変わらないレベルで整備すれば、流れは一気に加速するでしょうね。

ーーそれでもやはり、既存の組織の共同体的な感覚は根強いのではないでしょうか。

組織の中から変わっていくということには期待できません。具体的なシナリオとしては、大企業から飛び出した人が別の組織を作ることや、大企業でも周辺部分を全く違うスタイルの組織にして、その部分が大きくなり、本体にも影響を及ぼすといったことが考えられます。

いま注目しているのが、各地にできているサードプレイスやコワーキングプレイスです。そこで人材のマッチングをして、起業する人たちが出てくるわけですね。これが将来の企業や組織のイメージに近いかもしれません。

●縦の関係の「イヌ型」から、横の関係を好む「ネコ型」の時代に

ーーそういった大きな流れの中で、あるべき人材の姿も太田先生が主張されるように、「イヌ型」から「ネコ型」に変わっていくということでしょうか。

日本では、学校や会社といった社会全般で人々を「イヌ」として扱ってきました。従順さや協調性こそが何よりも重要だったわけです。少品種大量生産の工業社会で、欧米に追いつけ追い越せといった明確な目標がある時代にはそれでよかったのです。

しかし、先ほど説明したような新しい時代においては、「イヌ」扱いから解放すべきです。そこで、「ネコ型」ということになります。猫は管理されたり、コントロールされたりすることを嫌います。犬が縦の関係を好むのに対して、猫は横の対等な関係を好みます。

ポスト工業社会における創造力は、人から命令されたり、強制されたりすることでは発揮されません。上意下達ではなく、対等にコミュニケーションする能力や交渉力が求められます。それにマッチしたのが、自発的なモチベーションで動く「ネコ型」なのです。

ーーフリーランスが増えるということも、「ネコ型」の流れが進んでいることのあらわれでしょうか。

そうですね。フリーランスは野良猫ということかもしれません。組織にいる「ネコ型」もいると思いますが、それは飼い猫です。同じ猫でも、飼い猫だと十分に力を発揮できないかもしれません。時代にあっていないということであって、これは、評価や報酬といった人事についての話が適切ではなくなるということでもありますね。

●人事が配属や報酬を考えることは無意味

ーーなぜ人事の話に意味がなくなるのでしょうか。

これからの時代、どんな仕事をするかは、市場のニーズによって決まってきます。そして、これからの組織は、もっとも市場ニーズにマッチする人が、その時その場に集うような仕組みになります。

そうなると、人事として、誰にどの仕事をやってもらうかを考えて配属することに意味はなくなります。報酬についても、組織が決めるというよりも、自分で稼ぐという感覚になっていくでしょう。企業は、そのような人たちをどう組織の目的につないでいくかが重要になります。

ーーインフラ型の組織では、マーケットメカニズムがより強くなるということでしょうか。

そうですね、そこで一種の交渉みたいなものがあって、これがあなたのミッションです、これだけの貢献をしてください、それに対してこれだけ支払います、と条件を提示するということです。

情報ソフト系や雑誌、番組の制作などではある意味、フリーランスの連合体のような組織が珍しくなくなっています。プロジェクトベースの働き方が広がっていくということですね。

●流行の「ジョブ型雇用」も、「イヌ型」にすぎない

ーー話を聞いていると、職務内容を明確にして、そこにマッチした人を採用して当てはめる「ジョブ型雇用」に近い印象があるのですが、「ネコ型」を目指すというのはそういうことなのでしょうか。

全然違いますね。ジョブ型雇用は、産業革命後の大企業の官僚制組織がベースになっています。全体の仕事を細かくブレークダウンして、それぞれの個人が小さな職務を担当するイメージですね。

でも、「ネコ型」の人が活躍できるのは、先ほど説明してきたインフラ型の組織です。ジョブ型の組織は、「あなたはこれをやってください」ということがはっきりしているので、やはり「イヌ型」だったり、「ネコ型」だったとしても、飼い猫にすぎませんね。

ーー日本企業の従来の雇用については、ジョブ(職務)ではなく、ヒトをベースにした「メンバーシップ型雇用」とも呼ばれていますが、結局は「メンバーシップ型」から「ジョブ型」に変わっても、活躍する人材のタイプは変わらないということでしょうか。

そういうことですね。

ーー「メンバーシップ型雇用」では、人材を職務遂行能力でランク付けする職能資格制度のようなものがありますが、「ネコ型」の人材の重要性を見極めるうえでは、そのようなものは要らないということでしょうか。

そうですね。これまでは、犬の血統書をつける、みたいなことをやっているわけですね。「ネコ型」については、人事評価なんてしないということだと思います。評価は市場がするというイメージです。

ーーただ、「イヌ型」人材が集まって一緒に仕事をすることが、これまでの日本企業の強みだったとしたら、「ネコ型」人材が増えると、日本全体の国際競争力は落ちませんか。

やっぱり日本の人間的なつながりを生かしていくということがアドバンテージになると思いますよ。それは、共同体の中でのつながりというより、もっとパーソナルな関係ですね。

中国の華僑とか、シリコンバレーの人的なつながりや信頼感が参考になるかもしれません。組織ではなく、個人と個人の関係として、人間関係の濃密さや空気を読む機微のようなものが生かされると思います。

●副業の普及が「ネコ型」への転換のきっかけに

ーー単に「ネコ型」に変わればそれでうまくいくとは思えないのですが、成功するかどうかの分かれ目はどこにあると思いますか。

プロになれるかどうかだと思います。最近、楽しくやっているYouTuberなどがマスコミでよく取り上げられますけれども、彼らが持続的に右肩上がりに伸びていけるかどうか、不安に感じる面があります。本当に将来性があるのかどうか考えた方がいいでしょう。

ーーもはや、「イヌ型」が活躍できる余地はないのでしょうか。

企業を長期にわたって支える人というのは、確かに今後もある程度は必要だと思います。ただ、その比率は圧倒的に少なくなります。今の1割、2割が残ればいいのではないでしょうか。

典型的なものは、オーナー企業の創業家ですね。自分の一家を守るということですから、そこには忠誠心が求められます。

ーー「イヌ型」から「ネコ型」への転換を促すきっかけはありそうですか。

一番注目しているのは副業です。ここから変わっていくでしょう。副業が本格化してくると、どちらが本業か副業かもわからなくなります。会社は囲い込むことが難しくなり、だんだん変わっていくでしょうね。

ーー今日はありがとうございました。ところで、太田先生は猫を飼っているんですか。

はい、2匹飼っています。昔は犬も飼っていたのですが、4年くらい前に亡くなってしまいましたね。仕事をしていると、猫がやってきて邪魔をしてきて、もう戦いの日々ですよ。

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