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オレが悪いわけじゃないのに…電車遅延でバイト代減っても「鉄道会社」が責任負わないワケ
画像はイメージです(kikuo / PIXTA)

オレが悪いわけじゃないのに…電車遅延でバイト代減っても「鉄道会社」が責任負わないワケ

雨が降った日に気になるのが、電車やバスなど、交通機関の乱れ。始業の時間までに職場にたどりつけず、イライラしてしまったことはありませんか。

イライラするだけでなく、アルバイトなどの時給制の仕事では、遅延が発生して、勤務時間が短くなってしまった場合、受け取る賃金が減る可能性もあります。

始業に遅れた場合でも、電車の遅延を理由に「本来の賃金を払ってほしい」と会社側に要求することはできるのでしょうか。また、払ってもらえない場合、鉄道会社に賠償を請求することは可能なのでしょうか。吉成安友弁護士に聞きました。

●会社に遅延分の報酬を請求できない

——電車の遅延で出勤が遅れた場合、賃金はどうなるのでしょうか。

電車の遅延という、自分の責任でない事情で遅刻した場合でも、働いていない時間の分の時給は請求できません。これは、法的には「双務契約」における「危険負担」という問題になります。

——「危険負担」の問題とはどのようなものでしょうか。

簡単に説明しますと、雇用契約は、労働者が労働を提供し、使用者(会社)がその対価として報酬を支払うという双方が義務を負う契約です。このような当事者双方が対価的な義務を負う契約を「双務契約」といいます。

そして、双務契約において、一方の義務がどちらにも責任ない事情で果たせなくなったとき、自分の権利(相手の義務)もなくなるかどうかの問題が「危険負担」の問題です。

【民法536条1項】
当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる

簡単に言うと、どちらの責任でもない事情で義務が果たせなくなったときは、債権者(今回の場合は会社)は相手の要求を拒むことができます。

したがって、電車の遅延という労働者にも会社にも責任のない事情で労働を提供できなくなった場合、会社は労働者からの報酬請求を拒むことができるわけです。

●鉄道会社への請求も認められない

——遅延で得られなかった給与を鉄道会社に請求することはできますか。

天候不順など、鉄道会社に過失がない場合はもちろんですが、鉄道会社に過失がある場合でも認められません。

——どうしてでしょうか。

電車に乗る際、乗客は鉄道会社との間で「旅客運送契約」という契約を締結します。鉄道会社は、契約内容を「定型約款」で定め、ホームページで公表しています。

定型約款とは、不特定多数の顧客との契約を定型的に処理するために、あらかじめ作成している契約条項のことです。鉄道会社は、この定型約款で、遅延についての責任を限定しています。

たとえば、JR東日本は、「旅客営業規則」という約款の性質を有する規則を定めていますが、そこでは、駅到着時刻に2時間以上遅延するなど、規則で定められた事由に該当する場合に限って、旅客運賃と料金の払戻しや、有効期間の延長、無賃送還や他経路乗車船の取り扱いを請求することができると規定しています(同規則282条)。

これは、遅延が鉄道会社の責任によるものであるかどうかにかかわらず、乗客は、282条の282条に定められていない内容の請求をすることができない趣旨と考えられています。ですから、これに定められていない給与相当額の損害賠償請求はできません。

——鉄道会社の一方的に定めた規定でも有効なのでしょうか。

かねてより「旅客営業規則」(約款)の有効性は裁判例などで認められていましたが、2020年4月施行の改正民法で、「定型約款」に関する規定が新たに設けられ、約款の法的な位置づけや有効となる要件が明確になりました(民法548条の2)。

一方的に定めた定型約款が有効となるためには、原則として、顧客に「定型約款が契約の内容になりますよ」ということをあらかじめ表示する必要があるのですが、鉄道利用の際にいちいちそのような表示をするのは顧客にとっても煩雑です。

そこで、鉄道会社の行う旅客運送についての約款は、鉄道営業法18条の2であらかじめ「公表」していればよいとされています。そのため、鉄道会社は駅に備えつけたり、ホームページで公開するなどして、「公表」を満たすようにしています。

これら法定の要件を満たしていれば、会社側が一方的に定めた定型約款であっても有効です。

(弁護士ドットコムライフ)

プロフィール

吉成 安友
吉成 安友(よしなり やすとも)弁護士 MYパートナーズ法律事務所
東京弁護士会会員。企業法務全般から、医療過誤、知財、離婚、相続、刑事弁護、消費者問題、交通事故、行政訴訟、労働問題等幅広く取り扱う。特に交渉、訴訟案件を得意とする。

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