大阪市内のホテルで性的サービスを受けていた際、相手の女性をスマートフォンで無断撮影したとして、軽犯罪法違反の疑いで、大阪府警少年課の警部が3月20日、同府警に現行犯逮捕されたと報じられた。
報道によると、警部はベッドのそばに置いたバッグのポケットにスマホを隠し入れ、派遣型サービス店員の女性を撮影した。女性が気づき、スマートフォンの中からは撮影された動画が見つかったという。警部は「後で見返そうと思った」と容疑を認めている。
性的サービス中の女性を無断撮影したことが「軽犯罪法違反」としか報じられていないが、具体的にはどのような違反だったのだろうか。鐘ケ江啓司弁護士に聞いた。
●「ひそかに」「のぞき見」たことになりうる
——軽犯罪法のどの規定に違反したのでしょうか。
軽犯罪法1条23号でしょう。
警察では、かなり昔から裸体の隠し撮りに軽犯罪法違反が成立するとしています。裁判例でも同様に着替えなどの盗撮行為に軽犯罪法違反の成立を認めています。
【警察庁刑事局調査統計官編著「判例中心特別刑法[補訂版]」(立花書房、1982年8月)33頁】
(照会)
甲女は、普通の入浴客のごとく、公衆浴場に入り、持参の「カメラ」をタオルでかくして入浴中のA女ら数名の裸体を撮影した。住居侵入罪は別論として、軽犯罪法第1条第23号違反になるか。
(回答)
積極に解する。
軽犯罪法第1条第23号の「ひそかに」とは、見られないことの利益を有する者に知られないようにすることをいう。不特定又は多数の人の面前で行っても、見られる者自身に秘して行えば「ひそかに」に当たる。
また「のぞき見る」とは、物かげやすき間などからこっそり見ることをいう。何の作為もしないのに自然に見えてしまったような場合は、「のぞき見る」には当たらない。望遠鏡で見たり、カメラを用いてひそかに写真撮影する場合も、これに当たる。
所問の甲女は、全裸で入浴中のA女らを、公衆の利用する浴場の中とはいえ、同女らの承諾なくして同女らに知られないように「カメラ」をタオルでかくして撮影したというのであるから「ひそかに」撮影したことになる。
また、「カメラ」をタオルでかくして撮影したというのであるから、最早何の作為もしないで、自然に見えてしまったという状況ではなく、作為的に「のぞき見」たことになる。
なお、所問の既遂時期は、カメラのシャッターを押してフィルムに露光させたときと解する。(局報24.9.619)
●迷惑行為防止条例での規制には難しい問題も
——スマートフォンでの動画撮影も同じように考えるということですね。軽犯罪法以外の違反は考えられないのでしょうか。
迷惑行為防止条例で規制している地域もありますが、大阪府の場合は場所が限定されており、今回の事例では迷惑行為防止条例違反になりません。
【大阪府公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(6条2項)】 何人も、みだりに、公衆浴場、公衆便所、公衆が利用することができる更衣室その他公衆が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいる場所における当該状態にある人の姿態を撮影してはならない。(太字は編集部注)
東京都では私的空間についても規制していますし、福岡県でも規制していますが、ここは結構難しい問題があります。
——どういうことでしょうか。
実は、大阪府では、法務省に確認の上、私的空間に対する規制を断念しています。
「大阪府公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例改正の修正案」(平成28年12月、大阪府警察本部生活安全部府民安全対策課迷惑防止条例改正PT)
住居等(※筆者注:公衆性のない住居・浴場・便所等が当初の改正案では存在した)における盗撮又は見る行為の規制は、軽犯罪法23号と保護法益が重複しており、法益が重複している場合は、法律の先占事項となり、当該規制が違法のそしりを受ける可能性がある【法務省指摘】ので、追加を断念する。
個人的には、軽犯罪法1条23号は盗撮を直接に想定したものではなく、法定刑が軽すぎると思います。もっとも、条例での規制は合憲性に疑問がある上、文言に曖昧なものが多く見られます。立法で盗撮罪を制定すべきです。しかし、現時点で具体的な動きはないようです。
【4月22日11時50分、追記】大阪府は、「大阪府公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」を改正し、今回のケースのような無断撮影も規制の対象となった(https://www.police.pref.osaka.lg.jp/seikatsu/kodomo_jyosei/11703.html)。改正条例の施行日は2021年4月20日。ただし、今回のケースは、施行日前の行為であるため、迷惑行為防止条例違反に該当しないことには変わりない。