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コロナ禍で「おじさんコミュニティ」が崩壊、女性管理職が増える好機に 高田朝子・法政大教授に聞く
法政大学・高田朝子教授(提供写真)

コロナ禍で「おじさんコミュニティ」が崩壊、女性管理職が増える好機に 高田朝子・法政大教授に聞く

女性活躍を考えるうえで重要になるのが、女性リーダーの増加だが、政府が昨年12月に閣議決定した「男女共同参画計画」では、指導的地位に占める女性の割合を「20年までに30%程度」とする政府の目標の達成期限が「2020年代の可能なかぎり早期」に先送りされた。

2019年度の雇用均等基本調査によると、課長相当職以上の管理職に占める女性の割合は11.9%で、この5年間、横ばいが続いている。また、帝国データバンクの2020年の調査によると、女性社長の比率も8.0%にとどまっている。

今後、女性管理職の増加については、険しい道も予想されるが、法政大学ビジネススクールの高田朝子教授は、「新型コロナウイルスの影響で、働き方が変わったことは大きなチャンス」と期待を寄せている。どんな可能性があるのか、詳しく聞いた。(新志有裕、武藤祐佳)

●リモートワークでは、客観的な評価基準が必要になる

ーーなぜコロナ禍がチャンスになるのか。

リモートワークによる働き方の変化が、男女ともにやってきたことですね。自宅で働ける、ということだけではなく、仕事の評価のあり方についても変わることが非常に重要です。

ーー評価のあり方はどう変わるのか。

リモートワークが浸透すると、これまでのように、長時間一緒にいることを前提とした、主観的であいまいな360度評価がやりにくくなり、もっと客観的な評価基準の設定が必要になります。

「成果主義」という言葉が一時期流行っていましたが、あまり日本では適さないということで、今までのやり方を残しながら、お茶を濁してきましたが、コロナ禍で、ちゃんと評価をしないともう無理だ、という流れになっています。

コロナ禍は、非正規の女性にとっては、失業問題もあって、悪影響も大きいですが、正規の職に就いていて、昇進したいと思っている女性にとっては、いわゆる「おじさんコミュニティ」に属していなくても評価されるようになるチャンスがあります。

●「おじさんコミュニティ」で長時間一緒にいれば、評価されやすかった

ーー「おじさんコミュニティ」とは、どのような存在なのか。

「おじさんコミュニティ」は、日本の企業の長期雇用を前提として、濃密な関係を築き上げていく男性たちの集団です。問題は、そのコミュニティの中で物事が決まる傾向にあることです。例えば、大事なことが職場ではなく、アフター5の飲み会の場で決まることです。

人事評価も同様です。「おじさんコミュニティ」に属している人は、「こんな仕事がしてみたい」など、キャリアに関することも上司と飲みに行って気軽に話せます。様々な情報のやりとりがあり、弱みを握り合って仲良くなる、ということもあったでしょう。

彼らは、長時間一緒にいることで、優しい意味での360度評価をすることが可能でした。例えば、「○○くんは夜遅くまで頑張っていて、接待もしているし、人がやらない仕事もしてくれている。今期の成績は良くなかったけれど、彼は将来もあるので少し高めに評価しておこう」ということができるわけです。そこには情もあったでしょう。

長時間勤務を前提にすれば、一定の合理性もあったのですが、そのコミュニティの中に女性は入れていませんでした。アフター5まで同僚の男性たちと一緒にいたくはないでしょうし、子育て世代も多いので、そもそも加わっている暇がありません。

しかし、コロナ禍で、そのコミュニティが成り立たなくなりました。雑談もやりにくくなり、男性たちだけでつるめなくなっています。

ーー評価のあり方が変わることで、どんな心理的影響が出るか。

評価軸が変わるということは、説明責任も生じます。あいまいな好き嫌いではなく、『何ができた、できなかったからこの評価になった』と説明しなければ、納得は得られません。

人は納得のいく評価をされることによって、やる気が出てきます。評価されやすくなることよって、女性も腹をくくり、『よし、もう少しやってみよう』という前向きな流れが生まれることに期待したいです。

●上司たちによる「思い込み」も影響してきた

ーー女性管理職が育たなかった原因は「おじさんコミュニティ」だけなのか。

もう一つ大きな要因があります。これまで、多くの女性が途中で退職していたという過去の経験から、「どうせ辞めちゃうでしょ」と重要な仕事を任せなかったりする、「統計的差別」です。

企業の話ではありませんが、私立大学の医学部の入試で、女性が不利に扱われて問題になりましたよね。その後、東京医科大学は入試結果を公表しているんですが、すべての科目において、平均点の男女差はあまりありません。

「男だから数学ができる」「女だから英語ができる」というものではなく、あくまで個人差の世界です。それなのに、幻想が根強く存在してます。

ーー様々な「思い込み」が影響を及ぼしているということか。

リーダーシップの養成に最も必要なのは大変な仕事を通して経験を積むことですが、上司の女性部下に対する思い込みがそれを妨げている場合も多いです。

例えば、「きつい仕事を女性に体験させるのはかわいそう」という思いから、女性に大変な仕事を与えない。また、女性がスキルアップのための新しい挑戦をしようとしたところ、「女性は家庭を優先させるべき」と考えている上司に「家庭は大丈夫なのか」と止められたという事例も複数聞きました。

ーーしかし、やりたがらない女性も多いのではないか。

確かに、厚生労働省の調査でも、女性の管理職登用が進まない理由として多く挙がるのは「必要な知識や経験、判断力等を有する女性がいない」「女性が希望しない」の2つです。ただ、ちゃんと本人に「やらない」ということを選択させているんでしょうか。

上司たちの「大変そうだからやめておこうか」という日本ならではの「察する文化」があって、あいまいになっていたように思います。時間軸での状況変化を見ながら、本人に決めさせることが大事です。

●コロナ禍をきっかけに、今までのやり方を捨てる勇気を

ーーコロナ禍で変化の可能性が見えてきた中で、今後をどう見通しているか。

今後は人口減少でますます人手が足りなくなるので、女性を育成して管理職に登用することが不可欠です。ただ、企業の取り組み方は甘いので、腹をくくらないといけないでしょう。女性も同様です。

コロナ禍をきっかけに、投入時間と仕事の評価が切り離されることで、育児の時短勤務を選択せずに働き続ける人も出てくるでしょう。評価が変わることで、これまでは昇進に必要な経験が不足しがちだった女性も、より経験が積めるようになっていくと思います。

コロナ禍をきっかけに一度変わった働き方や評価方法を元に戻すのは簡単ですが、企業にとって必要なのは、今までのやり方を捨てる勇気を持ち、新しいものを取り入れることです。「おじさんコミュニティ」の考え方を、多様な人々を中心部に入れる考え方に更新する必要があります。

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