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「人を育ててから辞めろ!」残業代3年なし…ブラック企業を退職する方法
写真はイメージです(Satoshi KOHNO / PIXTA)

「人を育ててから辞めろ!」残業代3年なし…ブラック企業を退職する方法

長時間労働が横行し、残業代も支払われない「ブラック企業」の営業職。いざ退職を申し出ると、「責任取れよ! 在庫を買い取れ!」と言われてしまったーー。

会社をなかなか辞めさせてもらえないという相談が弁護士ドットコムに寄せられた。

入社して3年になる相談者は、ほぼ毎日、仕事は朝8時〜午前0時まで続くのに、残業代を一度ももらったことがないという。

そのような職場に限界を感じ、退職の意思を伝えたところ、「お前を信じて発注したんだから、在庫をどうするんだ?」「辞める権利を主張するなら、仕事の義務を果たせ」と退職届を突き返されたそうだ。

ほかにも「人を育ててから辞めろ!」などと言われてしまった相談者は「どうやったら退職できるんでしょうか? また、過去3年分の残業代も請求できるんでしょうか?」と頭を抱える。

ブラック企業を辞めるにはどうしたらよいのか。岩城穣弁護士が解説する。

●不当な要求に応じる必要なし

ーー相談者は退職できないのでしょうか

結論から言えば、ご相談者の方はいつでも退職することはできますし、当然のことながら、在庫を買い取る必要もありません。また、3年分なら残業代も請求できます。

【注:法改正で2020年4月から未払残業代の時効期間が2年から3年へ延長された。ただし、2020年3月までの未払残業代は2年で時効となる】

はじめに、法律が定めた退職ルールについて解説します。

正社員(期間の定めのない労働者)の場合、いつでも退職(労働契約の解約申し入れ)をすることができます。その場合、申し入れの日から2週間が経過することによって雇用契約は終了します(民法627条1項)。

これに対し、契約社員(期間の定めのある労働者)の場合は、定めた期間まで働くのが原則です。しかし、期間の定めがあると否とを問わず、やむを得ない事由があれば、労働者は直ちに労働契約の解除ができます(民法628条)。

使用者が労働基準法36条に定める時間外労働協定を締結せずに違法な長時間労働をさせたり、残業代を支払っていない場合には、「やむを得ない事由」に該当すると解されます。

そして退職する場合、使用者に対する損害賠償責任は発生しません。

また、使用者は「~すれば退職を認める」といった条件を付けることもできません。

退職や労働契約解除の意思表示は、労働者からの一方的な通告によって行うことができ、使用者や上司の許可や承諾は不要です。

したがって、「人を育ててから辞めろ!」とか「在庫を買い取れ!」といった不当な要求に応じる必要はありません。

●必ずしも退職届を受け取ってもらわなくてもよい

退職する場合「退職届」や「退職願」を提出し受け取ってもらうことが一般ですが、そのような手続が法律上必要なわけではありません。

面談や電話で口頭で通知したり、メールや手紙を送る方法でも構いません。

ただし、後から「聞いていない」「受け取っていない」などのトラブルを避けるために、意思表示の到達や時期について証拠を残しておくこと(手紙の場合は内容証明郵便、口頭の場合は録音やメモなど)が望ましいでしょう。

なお、残業代が支払われていなかった場合、会社に請求することができます。

しかし、未払残業代の時効期間は3年とされていますので(労働基準法115条/143条3項)、会社側が時効を主張してくれば、認められるのは過去3年分ということになります(ただし2020年3月までの未払残業代については2年で時効)。

(弁護士ドットコムライフ)

プロフィール

岩城 穣
岩城 穣(いわき ゆたか)弁護士 いわき総合法律事務所
1988年弁護士登録、大阪弁護士会所属。過労死問題をはじめ、労働・市民事件など幅広く活躍する「護民派弁護士」。

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