アスベスト(石綿)による健康被害をめぐり、かつて劇団(舞台)俳優だった男性2人が今年に入って、労働基準監督署に労災認定されていたことがわかった。アスベスト疾患の患者、家族でつくる団体が12月16日、都内で会見を開いて明らかにした。
「中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会」によると、舞台俳優の男性(当時70歳)がアスベストが原因の「中皮腫」で亡くなったとして、2018年に池袋労働基準監督署から労災認定されている。
一般に、劇団俳優はフリーランスとして活動しているため、「労働者性」が認められず、労災認定のハードルが髙いという。今回労災認定された男性2人も雇用契約はなかったが、「労働者性」が認められたかたちだ。
●照明器具を取り付けていた
村田さん(仮名・78歳)は1960年から2018年まで、都内の劇団に俳優として所属。1975年ごろまで、全国の小中学校の体育館などで、年間120日から180日の舞台公演をおこなっていた。
舞台設営のため、照明器具の取り付け作業をおこなう際、天井に吹き付けられていた石綿の粉じんにばく露したとみられる。入団時から月給制による報酬の支払いがあったことから「労働者性」があったとして、今年7月に渋谷労働基準監督署に労災認定された。
喫煙歴はなかったが、2016年2月、肺腺がんを発症。抗がん剤治療をおこなうなどして、現在も自宅療養をしているという。
●小道具などを設置していた
小田さん(仮名・55歳)も1990年から2008年まで、都内にある別の劇団に俳優として所属。入団当時から全国の学校・会館・ホールなどの公共施設を公演で回っていた。小道具(雪の紙など)を設置する際、天井に吹き付けられた石綿に触れるなどしたという。
(1)公演にあたって、劇団内の演出家・舞台監督をつとめる劇団員の指示にしたがっていた(2)公演の時間、タイムスケジュールも自己の判断で決めることもできなかった――などから「労働者性」が推認されて、今年11月に池袋労働基準監督署に労災認定された。
2020年1月、悪性胸膜中皮腫と診断され、その際に余命1年4カ月と告げられた。高校生の子どもを抱えながら、現在も懸命に治療をつづけている。
●「絶対、あきらめない」
小田さんは団体を通じて「ありがたいと感謝しています」とコメント。
「このまま行くと、来年の春には、この世にはいないな〜、困っちゃったな〜、残された家族はどうなっちゃうのかな〜?まさに死に向かう、終活中ではありますが、なかなか、実感はわきませんねェ〜」
「これから、痛みも増えて、やがて食欲も無くなり、苦しみが増して、死んじまうのか!と思うと、もの凄い虚脱感に襲われます」「息子には、親父の背中を見せてあげるべく、過ごしたい!うろたえず、自殺もせず、最後まで命をまっとうしたい!」
「今後、アスベストが一切使われないことを望むし、少しでも、病気になってしまった人が、尊厳を失うことなく、人生をまっとうすべく、生きていただきたいし、自分も笑顔で生きていきたいと切に願います」
「絶対、絶対、絶対、絶対、絶対、絶対、あきらめない!」
●「芸能一般に密接に関わってくる問題だ」
「中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会」の澤田慎一郎さんは会見で「いわゆるテレビに出る芸能人でも、若いころは小さな劇団に所属していた人もいる。学校に限らず、劇場等で公演しているが、対策のとられていないところもあったはず。芸能一般に密接に関わってくる問題だ」と述べた。
同会はこの日、萩生田光一文部科学相と宮田良平文化庁長官あてに次のような要望書を提出した。
(ⅰ)体育館をはじめ学校施設におけるアスベスト被害の危険性について改めて情報提供し、労災・公務災害制度をはじめとする制度枠組みに関して周知徹底すること
(ⅱ)劇団をはじめとする舞台芸術関係団体に対して、本件を周知し、体育館はもちろん舞台施設におけるアスベスト被害の危険性について改めて情報提供し、労災・公務災害制度をはじめとする制度枠組みに関して周知徹底すること
同会は12月17日、18日の10時〜18時、全国一斉の電話相談を実施する。電話番号は0120-117-554。ホットラインの詳細はホームページから(https://www.chuuhishu-family.net/w/)。