学歴詐称問題などをめぐって辞職した静岡県伊東市の田久保真紀前市長に対し、選挙費用など約1億円の損害賠償を求める住民訴訟を検討している市民グループが行ってきたクラウドファンディングが7月12日に終了し、目標額の150万円を達成したことがわかりました。
クラウドファンディングサイト「For Good」の活動報告によると、活動には151人が賛同し、合計150万5000円が集まったとされています。1億円を求める裁判であれば、印紙代や弁護士費用なども高額になりそうなのに、なぜこの金額なのでしょうか。解説します。
●支援金150万円の内訳
クラウドファンディングサイトの活動報告によると、内訳は次のとおりです。
・訴訟、弁護士費用等:約110万円 ・交通費等:約20万円 ・雑費等:約20万円
このお金は、住民訴訟の提起のほか、関係者への刑事告発や懲戒請求の検討などにも充てられるとのことです。
●訴訟の費用にはどんなものがある?
このうち、「訴訟、弁護士費用」とされているものは、主に印紙代と弁護士費用と考えられます。
印紙代は訴状に添付するものです。一般には「訴額」(請求額)が高いほど高額になり、訴額が1億円なら32万円です。
ただし今回のような住民訴訟では、1億円を請求しても印紙代は一律1万3000円で済みます。
住民訴訟は、住民個人ではなく自治体全体の利益を目的とした特殊な訴訟で、訴額の算定方法が異なるためです。
今回であれば、市が受けた選挙費用などの損害について、市から田久保氏に請求するように、市に対して請求する形になります。
金額の算定が極めて困難な請求は、訴額を一律160万円とみなすと定められています(民事訴訟費用等に関する法律4条2項)。
住民訴訟にもこの規定が適用され、訴額160万円なら印紙代は1万3000円になります。
なお、ことし5月に始まった裁判のIT化により、オンラインで訴えを起こせば1万1900円です。
●弁護士費用も、勝てば市に請求できる
次に弁護士費用です。
弁護士費用は弁護士によって異なりますが、多くの場合、依頼時に支払う「着手金」と、勝ったときの「成功報酬」という形をとります。
かつて弁護士が一律に用いていた「旧報酬規定」で計算すると、1億円を請求する裁判の着手金は369万円。成功報酬まで含めると1100万円ほどです。
110万円では、着手金にも足りません。
もっとも住民訴訟には、勝訴すれば弁護士報酬のうち相当な額を自治体に請求できる制度があります(地方自治法242条の2第12項)。
実際、県が8000万円あまりを取り戻せた住民訴訟もあります。この事案では1012万円が相当な額と認められました(名古屋地裁平成29年(2017年)6月29日)。
110万円という金額は、この制度を前提に抑えられた初期費用とみられます。
ただし「相当と認められる額」が少額にとどまることもあります。
過去には、認められた額が原告全員でわずか30万円だった裁判例もあります。
●勝訴できなかった場合
また、個人的な意見ではありますが、今回は勝訴のハードルが高いと考えられます。
市が選挙費用を支出した行為の違法性を認めさせるとか、田久保氏の経歴詐称を不法行為とみる場合には、経歴詐称と選挙費用の支出の因果関係の立証などが必要となり、簡単ではありません。 敗訴すれば、この制度は使えません。
弁護士費用は、集まった110万円の範囲内でまかなうことになりそうです。
小倉匡洋(弁護士ドットコムニュース編集部記者・弁護士)