新型コロナウイルスの対策として、従業員に「毎朝の体温測定と体温報告」を求める企業もあるという。報告先は上司や総務課など、会社によってさまざまだ。
しかし、中には全社員の体温を共有し、誰もがお互いの体温を見ることができる状態になっている会社もあるようだ。弁護士ドットコムにも、「全員が見る掲示板に体温を記入しなければならず、とても嫌です」という女性から相談が寄せられている。
相談者の会社では、仕事が始まる前に全員が検温をしなければならない。ここまでは許容できるとしても、問題はその先だ。会社内の掲示板に張り出した用紙に自分の体温を記入しなければならず、その掲示板は誰もが見ることができるのだという。
「男性が多い職場のため、抵抗があります。拒否することはできないのでしょうか」と相談者は聞いている。会社のやり方に問題はないのだろうか。濵門俊也弁護士に聞いた。
体温の公表は「プライバシー権の侵害」にあたる可能性も
ーー体温を公表することについて、「プライバシーの侵害」ではないかという声もある。法的な問題はあるのだろうか
「プライバシー権は『私生活をみだりに公開されない権利』(伝統的古典的定義)や『自己の情報をコントロールする権利』(憲法学の通説的見解)などと定義されます。
もし、プライバシー権を『自己の情報をコントロールする権利』と解した場合には、毎朝の体温を公表されることは個人のプライバシー権を侵害する行為に該当し得ると思われます。
特に、妊娠・出産を望んでいる女性従業員にしてみれば、公表の期間が1か月にも及べば、自らの基礎体温を公表するに等しいといえます。そのため、プライバシー侵害の程度は男性従業員のそれに比して極めて強いと考えます」
●体温の情報を全社員が共有する必要はない→別の方法を
ーー相談者の会社のように、体温の情報を全社員がみられるという状態は望ましくはないということになる。そうなると、会社はどのような方法で体温の報告を求めるべきだろうか
「そうですね。今回のケースの場合、使用者側が体温の情報を全社員に共有する目的がよく分かりません。このように共有した場合、従業員間で監視し合うような状態にもなりかねず、企業全体の士気も下がるのではないかと思います。
たしかに、高熱が続く従業員には自宅待機をしてもらう等の措置をとってもらう必要があります。そのため、使用者側にしてみれば、各従業員の体温を把握する必要があることは理解できます。
しかし、一般の従業員がほかの従業員の体温の情報を把握できたところで、同じ立場なわけですから、何らの措置もとることができないことは明らかです。
上述のとおり、体温の公表はプライバシー侵害に該当し得るものであると思われます。そのため、体温を報告する手段は、必要最小限度の方法(たとえば、単なる上司に報告するのではなく、自宅待機などの命令を下せる人が情報を把握できるような社内の「報告窓口」に報告するなど)を選択すべきではないでしょうか」