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道交法無視の自転車多すぎ! いっそ「免許制」にしたら解決する?
写真はイメージです(yamasan / PIXTA)

道交法無視の自転車多すぎ! いっそ「免許制」にしたら解決する?

車と同じように、自転車も「免許制」にすべきではないかという声が上がっている。

「無灯火、逆走、イヤホンやスマホをしながらの運転などをしている自転車を見るたびに、自転車免許は必要だと思う」、「そもそも道路交通法を知らずに自転車に乗っているのではないかという人がいる。啓蒙のためにも必要」など、免許制に賛成する理由はさまざまだ。

一方、「自転車に厳しすぎる」、「コストがかかる」、「世界で自転車に免許制を設けている国はない」、「それよりもマナー教育を徹底すべき」などの反対意見もある。

もし、自転車免許制が導入された場合、どうなるのだろうか。

●自治体などで取得できる「自転車免許」

独自の「自転車免許制度」をおこなっている自治体や学校などもある。学校などで交通安全講習を受ければ、「自転車免許証」を取得できるというものだ。

講習の対象者は主に子どもや高齢者。「むしろ自転車のマナーを学ぶべきなのは、子どもの保護者など、大人なのではないか」という意見もある。

「自転車免許証を取得しなければならない」という法律上の義務はない。そのため、免許証を持っていなくても自転車を運転することはできる。もちろん、持っていないことを理由とした罰則もない。

しかし、このような免許証の取得ではなく、車と同じように「無免許」が許されない「自転車免許制度」を望む声が少なくない。

ただ、「自転車運転免許制度」はないものの、車の運転免許保有者に対しては、6カ月を超えない範囲で自動車等の運転免許停止処分が下される場合もある(道路交通法103条1項8号、同法施行令38条5項2号ハ)。たとえば、自転車でひき逃げの人身事故を起こしたり、飲酒運転を繰り返したりした場合などだ。

なお、「自動車等」は「自動車及び原動機付自転車」を意味するため(同法84条1項)、このように運転免許停止処分が下された場合も「自転車」には引き続き乗ることができる。

●メリット:「加害者」「被害者」になる可能性を減らせる

もし、「自転車運転免許制度」が導入されることとなった場合、どのようなメリットが考えられるだろうか。交通事故に詳しい平岡将人弁護士は、つぎのように語る。

「法的には自転車は『軽車両』として車両の一種となっています。そのため、交通ルールを遵守しないといけません。自転車運転中に歩行者に大きなケガを負わせてしまい、高額の賠償責任が認められた裁判例なども実際に存在します。

自転車運転中に他人にケガを負わせる『加害者』としての側面のみならず、自転車運転中に交通事故に遭遇して死亡してしまう『被害者』の側面からみても、その7割以上が法令に違反していたといわれています。そのため、自転車の運転者が法令を遵守することは、他者を守ることのみならず、自分自身を守ることにもつながるといえます。

しかし、自転車には免許が不要なことから、この交通ルールを学習することなく自転車に乗ることができてしまいます。

私も何度かヒヤっとした経験がありますが、ときに車両運転者としての自覚を欠き、歩行者の感覚で運転してしまっている人もいるように思われます。

実際に『出会い頭衝突事故』の割合はすべての交通事故において約24.5%なのに対して、自転車対自動車の事故では約54%にも及んでいます。これは、歩行者の感覚で、安全確認をせずに運転することが原因として考えられます。

このように考えると、自転車を運転する人には、人に危害を与える可能性がある『車両』を運転する人としての自覚を持たせることが必要といえるでしょう。また、前提として交通ルールを学ぶことも必須です。

この自覚と知識があれば、『加害者』となることも、『被害者』となることも減らすことが期待できます。運転免許制度を導入するメリットはこのような点だと思われます」

●デメリット:維持管理費用の増大は避けられない

逆に、デメリットはどのようなことが考えられるのだろうか。

「まず、利便性が大きく下がるというデメリットがあります。自転車は、子どもの日常利用や外国人の観光利用など、様々な場面で利用されています。気軽に利用できる移動手段であり、ちょっとした外出にも利用できるとても便利な道具です。条件を厳しくすれば、子どもが自転車に乗れなくなってしまう可能性もあります。

自動車の運転免許保有者数は、我が国では8200万人(平成30年)となっています。これだけの数の免許の維持管理(たとえば、免許の取得のための試験、定期的な更新や講習、運転免許の点数制度の運営、警察による定期的な法令違反の検挙活動など)に、多くの資源が投入されています。

もし、実際に『自転車運転免許制度』を導入した場合、自動車免許制度の既存インフラの大部分を利用するにしても、免許希望者は自動車免許取得者以上となることが考えられます。そのため、維持管理費用の増大は避けられないと思います。また、この費用増加に対応するために新税ができたとしたら、利用者の負担となってしまいます。

さらに、免許制度がある自動車も交通ルール違反が多発しており、交通事故による死傷被害者は未だに多いのが現状です。そのため、多額の資源を投下して自転車を免許制度にしたからといって、交通ルールを遵守するようになるのかとの疑問も生じます」

●必要なのは「正しい知識と、運転者としての自覚」 

平岡弁護士は「自転車の運転者に交通ルールをきっちり理解してもらい、安全運転をしてもらうための方法を考えたい」と語る。

「自転車だけではなく、歩行者が交通事故に巻き込まれるのも、多くは交通ルール違反が要因となっています。そのため、公道利用のルールとして、定期的に、広く国民に対して知識を伝える努力が必要だと考えます。

ルールそのものを伝えることも必要ですが、交通ルールを守らないデメリットをもっと認識してもらうのも1つの方法です。

たとえば、『交通事故死者の多くは交通ルールを守っていない』という事実や、『いざ事故に遭ってもルールを守っていないと、十分な賠償を受けられなくなること(過失相殺されるため)』などを知ってもらうことです。

私自身も、歩行者の交通事故死傷者数は7歳児(小学1年生)がもっとも多いという統計があったので、注意喚起のためのパンフレットを作り、配布したこともあります。すると、パンフレットを手に取った方々から「知らなかった」「子どもに気をつけさせたい」などの反響がありました。

免許制度の創設維持よりも費用は少なく済むと考えられることから、このような告知などを定期的に税金でおこなうべきだと思います。

また、警察に余力があるならば、自転車の違反の検挙を推進してもらうことです。このように自転車運転者としての自覚を促していくことで、抑止効果が期待できるでしょう。

『正しい知識』と『運転者としての自覚』。この2つを促すことが重要だと思います」  

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

プロフィール

平岡 将人
平岡 将人(ひらおか まさと)弁護士 弁護士法人サリュ銀座事務所
中央大学法学部卒。全国で10事務所を展開する弁護士法人サリュの前代表弁護士。主な取り扱い分野は交通事故損害賠償請求事件、保険金請求事件など。著書に「交通事故案件対応のベストプラクティス」ほか。実務家向けDVDとして「後遺障害等級14級9号マスター講座」「後遺障害等級12級13号マスター講座」など。

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