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介護施設の賃金格差「正社員と同じ仕事だから、ボーナス欲しい」パート職員らが提訴
記者会見に臨む介護職員ら。パート職員(シングルマザー)の娘も同席(2020年2月3日・弁護士ドットコム撮影)

介護施設の賃金格差「正社員と同じ仕事だから、ボーナス欲しい」パート職員らが提訴

静岡県沼津市の介護施設「クローバーライフ沼津」で働く職員らが、施設を運営する株式会社クローバー(神奈川県平塚市、サン・ライフグループ)を相手取り、職員23人分の未払い残業代や賞与など計約3731万円の支払いを求める訴訟を静岡地裁沼津支部に起こした。

提訴は1月30日付。正社員とパートの各介護職員と代理人弁護士らが2月3日、東京・霞が関の厚労省記者クラブで会見を開いて明らかにした。職員にはシングルマザーとして働くパート職員も多く、「パート職員がいなければ介護業界は成り立たない」と訴えた。

●「同じ仕事をしているのに」正社員への賞与、パートにはなし

原告の職員らはプレカリアートユニオン静岡支部・クローバーライフ分会に所属する組合員総勢23人。同社がパート職員にボーナスを1円も払わないという非正規差別や残業代未払いがあると主張。

パート差別の是正を求め、2017年〜2019年までの3年間6回分の正社員と同等基準の賞与の支払いを求める。また、実際は取得できていなかった夜勤の休憩時間や残業代など未払い賃金を請求する。

施設の正社員には会社の業績にかかわらず、毎年夏と冬に給与1か月分の賞与が支給されているが、同じ仕事をこなすパートに賞与は一切支払われていないという。

2018年夏の団交で、同社社長に対してパートにも賞与の支払いを求めたところ、パート1人につき5000円の寸志が支払われた。同年冬の団交でも賞与を求めると、社長は「5000円を昨年渡したことを後悔している」と言って拒否し、それからは団交の求めにさえ応じなくなったそうだ。

訴訟代理人の佐々木亮弁護士は「この5000円も賞与ではなく、組合への解決支払い金という名目で支払われた。賞与を支払ったという実績さえ残したくなかったのではないか」と話す。

●名ばかりの夜勤休憩「早出やサービス残業も横行」

正社員の50代女性介護職員は「常に早番や遅番や夜勤をしている。夜勤は常にコール対応が30件もある。休憩枠があるけど、対応に追われて現実には休めていない」と語る。

施設の50代男性管理者も「夜間の休憩時間は2時間付与されているが、全く休憩時間としてカウントされず、労働からの解放時間が1分もない」と補足する。名ばかりの休憩時間だけでなく、早出やサービス残業も横行しているという。

賞与や残業代の問題だけでなく、「本社には認められている退職金が施設の正社員にもパートにもない」「有給休暇も消化できない」「本社の通勤手当は2万円と聞いているが、施設職員は上限1万円」など格差や差別の実態が職員の口から明かされた。

●「利用者みんなが水虫に」。人員不足から「虐待」も起きた

人員不足が問題の根底にある。待遇が悪いため、求人を出しても応募がない。2017年ころまでは利用者への「虐待」も横行していたという。

「人員が足りないため、介護職員の中には正式な手続きを取らずに利用者さんを身体拘束したり、放置したりすることがあった。やむにやまれずです」(施設管理者)。

人員だけでなく、予算も足りないため「利用者の靴がカビだらけで、みんなが水虫になっていた」(パートの看護職員の50代女性)というひどい状況だった。団交で求めて問題の状況は改善されつつあるが、職員の待遇はほぼ変わらなず、やむなく裁判を起こすことになった。

小学生の娘を連れて会見に出席したパートの20代介護職員はシングルマザーだ。「介護の内容的には正社員と同じことをしています。子育てのためにダブルワークで働くシングルマザーも多く、一時金が欲しかった」と切実な思いを語る。

クローバー社の親会社である株式会社サン・ライフホールディングは2月3日、弁護士ドットコムニュース編集部の取材に「訴状が届いていないのでコメントできる段階ではございません」とコメントした。

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