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九州の学習塾「転勤不可の社員は、賞与を減らす」 突然の変更、これってアリ?
画像はイメージです(kikuo / PIXTA)

九州の学習塾「転勤不可の社員は、賞与を減らす」 突然の変更、これってアリ?

転勤不可の社員は、賞与を減らすーー。九州地方の学習塾に勤める女性から「入社後、職員の同意なしにこういった規定をつくることは、違法ではないのでしょうか」と弁護士ドットコムのLINEに情報が寄せられました。

女性が勤める学習塾は、九州各県に教室があります。会社から新たに「エリア雇用制度」を導入し、転勤ができない社員は賞与を2〜3割減らすとアナウンスがありました。

女性は入社した際、配属希望について「どこでもいいです」と答えており、転勤不可の職員ではありませんでした。しかし、現在は夫の仕事の関係で家族での転勤は難しそうだと言います。

加えて、そもそも会社側から転勤の可否を聞かれることがなかったそう。「周りの人は、希望を出してその通りに配慮してもらったという話ばかり。今後希望が出てくればできるだけその希望に沿うようにすると聞かされていました」と言います。

女性が疑問に感じているのは、こうした知らせが突然なされたことでした。会社は労働組合がなく、各事業場ごとにいる労働者代表も女性に対し「事前に聞かされていなかった」と話したそう。

女性はこのままだと「エリア雇用」にあたり、賞与が減ることになります。この変更は不利益変更には当たらないのでしょうか。川岸卓哉弁護士に聞きました。

●勝手に変更、違法ではないの?

ーー社員の同意なしにこうした規定をつくることは、違法ではないのでしょうか

「エリア雇用」を労働契約の内容である「労働条件の不利益変更」と捉えた場合、原則として、合意によってのみ、労働契約の内容である労働条件を変更することができます(労働契約法8条)。

「エリア雇用」の変更が、就業規則によって導入される新制度である場合にも、原則として、不利益変更であると考えた場合、各労働者の合意であることが原則です(労働契約法9条)。

ただし、例外として、「変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的な場合」には、有効となります(同法10条)。

●今回のケースは?

ーー今回のケースはどうでしょうか

相談者の職場の場合は、少なくとも、交渉の状況に問題があり、合理性を否定され、無効と判断される場合もあります。

この相談内容だけでは不明なところですが、やや複雑なのは、「エリア雇用」制度が事実上の社員制度の変更であり、契約書の変更や就業規則の変更等も経ていない場合です。

この場合には、会社の人事処遇制度はある程度会社に裁量が認められることが多く、制度自体の違法性を正面から問うのは難しくなります。もっとも、会社側の説明では、エリア雇用か否かで「賞与を2~3割カット」することは、合理性が乏しく、会社の人事処遇制度の裁量逸脱と主張することも考えられます。

ーーどうすれば良いのでしょうか。考えられる会社側へのアクションを教えてください

まず、労働契約法違反が疑われる場合には、労働基準監督署に相談し、指導を求めてもらうことが考えられます。ただ、今回の場合は、形式的に違反しているものではないため、労働基準監督署も動きづらい事案となるかもしれません。

その場合には、弁護士に法的見解を整理してもらい、会社に書面等で伝え、会社に再考を促すことも考えられます。これに応じない場合、最終手段としての労働審判、訴訟提起もあります。

今回の職場では労働組合がないとのことですが、この問題を契機に、不利益を被る同僚等と一緒に、労働組合を結成し、交渉することもおすすめです。コミュニティユニオンなど個人加盟の労働組合と加盟をして、その支部として結成することもできます。会社側からの労働条件の不利益な変更については、労働組合を作って、継続的な交渉で押し返せる関係をつくっておければ、今後も心強いです。

プロフィール

川岸 卓哉
川岸 卓哉(かわぎし たくや)弁護士 川崎合同法律事務所
日本労働弁護団、神奈川過労死被害対策弁護団所属。多くの労働に関する裁判事件を扱うとともに、労働NPOワーカーズネットかわさきを立ち上げ、深夜街頭相談やSNSなどを使い労働問題の掘り起こしにも取り組んでいる。グリーンディスプレイ青年過労事故死事件の解決を通じ、勤務間インターバル規制の早期導入を訴えている。

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