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ユニクロ・中国下請工場の「ブラック労働」、NGO「根本的に解決していない」と指摘
講演するSACOMのソフィー・チャンさん(左)、伊藤和子弁護士(右)ら

ユニクロ・中国下請工場の「ブラック労働」、NGO「根本的に解決していない」と指摘

香港のNGOSACOMStudents & Scholars Against Corporate Misbehaviour)」が20151月、中国にあるユニクロの下請け工場2社が、労働者を劣悪な環境で働かせているとする報告書を公表し、大きな反響を呼んだ。

ユニクロを展開するファーストリテイリング(ファストリ)社は、報告書の内容が一部事実であることを認め、改善を進めるとの方針をすぐさま公表した。

あれから1年以上が経過して、改善はどのくらい進んだのだろうか。SACOMのソフィー・チャンさんが今年325日に来日し、東京・御茶ノ水の明治大学で追跡調査の結果を報告した。

「残業しないと生活できない」

SACOM20147月から11月にかけて、中国にある2つのユニクロの下請け工場を「潜入調査」。労働者として働きながら、就労時間や賃金などを調べた。

報告書では、月130時間ほどの時間外労働の常態化や、ミスをすると罰金が課せられる「違法」な労働環境があったと指摘している。また、染色過程では、40度前後の高温や悪臭の中での作業を強いられ、化学薬品から健康を守るための手立てもほとんど取られていなかったとしている。

報告書を受けて、改善を約束したファストリ社は20157月、HP上で進捗状況を発表。問題となった2工場について、人員増や通気性改善の工事、安全研修などの対策を打ったことを報告した。

SACOMはファストリ社の発表後、本当に改善が進んだのか追跡調査を実施。その結果、一定の効果はあったものの、「重要な点のいくつかで根本的な解決がなされていない」(ソフィーさん)ことがわかったという。

例えば、SACOMは、問題の発覚した2工場の労働者計40人に聞き取り調査を実施。未だに月80時間を超える時間外労働が行われている可能性が高いという。

「仕事量が多い上、賃金が大きく見直されていない。基本給が低いため、労働者が残業しないと生活費を稼げない状況にあります」

また、防護装備などは提供されたものの、適切な安全教育がなされていないため、効果が乏しいという。納期が厳しく、作業量が多いため安全への知識・意識の乏しい労働者が、作業の邪魔だと作業服やマスクを脱いでしまうそうだ。

ソフィーさんはこれに加え、労働者が自身の代表を選べず、工場側に意見を伝えられない構造にも問題があるとした。

「下請けのことは全然関係ないよ」は許されない

SACOMは昨年、新たにユニクロの下請け工場2カ所でも調査を開始した。そこでは、労働者に対し、中国の法律で決められた社会保険料が支払われていないなどの問題があったという。別の工場では2014年から2015年にかけて、社会保険料の未払いなどを理由としたストライキも発生している。

ソフィーさんは、「ユニクロはCSRリポートの中で、下請け工場の『品質管理をしっかりしている』と書いている。私たちは品質だけでなく、労働環境も管理すべきだと思っています」と語る。

ファストリ社にとっては、現地の工場は直接経営しているわけではなく、あくまでも委託先。環境の改善は容易ではないかもしれない。しかし、ソフィーさんは「ユニクロは日本だけでなく、世界のアパレルブランドのスター。ファストリ社の方が明らかに資源を持っており、現地工場より多くのことができるのは確か」と言う。

SACOMと共同調査を行った人権保護NPO「ヒューマンライツ・ナウ」の事務局長・伊藤和子弁護士も次のように語る。

「ファッションブランドを扱う企業は賃金が安く、労働権の侵害が起きやすいところに進出して、利益を得ている。国連では『ビジネスと人権に関する指導原則』(2011年)というものが採択され、ブランド企業がサプライヤー(下請け工場)にさかのぼって人権の保障をしないといけないという責務を定めている。日本でも『下請けのことは全然関係ないよ』という議論を乗り越えていかないといけない」

SACOMは今後もファストリ社に対し、下請け工場の労働環境見直しを強く求めていくという。

(弁護士ドットコムニュース)

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