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早出勤務は「残業」として認められないのか? ある金融マンの自殺をめぐる裁判から
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早出勤務は「残業」として認められないのか? ある金融マンの自殺をめぐる裁判から

早朝出勤を繰り返していた金融マンが自殺した。残された妻は「過労」のためだとして勤務先を訴えたが、裁判所は損害賠償請求を認めなかったーー。そんな話が6月中旬、産経新聞のウェブサイトで報じられたところ、「早出勤務」は時間外労働として認められないのか、という疑問の声がネットで起きた。

産経新聞の報道によると、自殺した男性は、金融機関の融資担当で、管理職を補佐する立場だった。連日午前6〜7時台の出社や深夜残業がつづくなど過重な負担が重なり、うつ病を発症。2005年7月、男性は38歳で自殺した。その後、労働基準監督署が、最長で月109時間の時間外労働を認めて、労災を認定したのを受け、妻は金融機関に損害賠償を求める裁判を起こした。

1審の大阪地裁は、妻の主張を認めて、勤務先に対して約9000万円の賠償を命じた。しかし、2審の大阪高裁は昨年7月、妻の請求を棄却する判決を下した。早出出勤については「個人的なライフスタイル」と捉え、残業(時間外労働)に含まれないとしたのだ。その結果、残業は最長月72時間であるとして、「それほど長時間労働とはいえない」とみなされた。

妻は最高裁に上告したため、裁判はまだ続いている。1審と2審で分かれた判断を受け、最高裁がどのような認定をするのか、注目される。

今回の高裁判決では、早朝勤務が「残業」として認められなかったが、一般的に、早出勤務は残業といえないのだろうか。働く時間帯によって、残業になるかどうかが異なるのか。過労死問題にくわしい波多野進弁護士に聞いた。

●「早出」は残業ではないのか?

「定時の始業前の早出残業でも、定時の終業時間後に行われる残業でも、業務の必要性があり実際に働いていたのであれば、それは労災(労災にまつわる損害賠償)における過重性を判断するための『時間外労働』とみなされます。私が知る限り、これまでの行政の先例や裁判例の判断の多くは、この立場に依っていると思います」

波多野弁護士はこのように説明する。

「過労死に関する判例で有名な『電通事件』最高裁判決(2000年3月)は、『労働者が労働日に、長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして、 疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なう危険のあることは、周知のところである』と述べています。

この最高裁の判断においては、働いた『時間帯』によって時間外労働となるかならないか、といった区別は全くしていません。今回話題になっている大阪高裁判決も、早出出勤だからという理由で時間外労働を認めなかったわけではないことに注意する必要があります」

どういうことだろうか。

「大阪高裁判決の判断は、業務の必要性から早出出勤をしていたわけではないという前提に立っています。

早出出勤途中に食堂で朝食をすませたり、コンビニで朝食を買って職場で朝食をとったほか、仕事がら、一般紙の朝刊だけでなく、経済新聞の朝刊に目を通していた。早出をしていたのは、被災労働者が単身生活だったことから、社宅にいても職場に出ても特に生活上異なるところはないためだったと判断したのです。

この前提となる判断が正しいかどうかは別の議論ですが、この男性の早朝出勤は、業務上の必要性がなかったとして、時間外労働に含まれないと判断したのです」

大阪高裁判決は、「時間外労働」の時間帯が早出というだけで「時間外労働」に該当しないという判断を行ったというわけではないということだろうか。

「そうです。この大阪高裁判決はさきほどのような事実関係をもとに、このケースでの早出残業を時間外労働として認めなかったに過ぎず、早出残業を一般的に時間外労働として認めないという判断がされたわけではありません。

あくまで、大阪高裁の今回の事実認定をもとにした判決であり、早出残業に関する先例的価値はないと思われます」

(弁護士ドットコムニュース)

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

プロフィール

波多野 進
波多野 進(はたの すすむ)弁護士 同心法律事務所
弁護士登録以来、10年以上の間、過労死・過労自殺(自死)・労災事故事件(労災・労災民事賠償)や解雇、残業代にまつわる労働事件に数多く取り組んでいる。

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