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「弱虫のほうが交渉はうまくいく」 弁護士が語る「気弱な人」のための交渉術
谷原誠弁護士

「弱虫のほうが交渉はうまくいく」 弁護士が語る「気弱な人」のための交渉術

話し合いの場で、相手の強引な主張に押し切られたり、つい譲歩してしまう。そういう経験のある人は「自分は気が弱いから、交渉に弱い」と考えているのではないだろうか。しかし、今年3月に発売された書籍『弁護士が教える気弱なあなたの交渉術』(だいわ文庫)の著者である谷原誠弁護士は「気の弱い人のほうが、交渉はうまくいきます」と断言する。その極意はどこにあるのか、谷原弁護士に聞いた。(取材・構成/具志堅浩二)

●気の弱い人は相手の話を聞くことができる

「交渉で大事なことは、相手に勝つことではなく、自分にとって、いかにメリットのある結果を導き出すかです。まず、そういう方向に意識を変えることがポイントです」

たとえば、ある従業員が経営者に対して「給与を上げてほしい」と要求したとする。ここで、単純に勝ち負けだけを考えると、給与を据え置きにすれば経営者の勝ち、ということになる。

だが、その従業員が優秀な人で、給与を上げてもらえなかったために辞めてしまい、戦力が大きくダウンしたとしたら、交渉の勝利が逆に良くない結果をもたらしたことになる。給与を上げたとしても在籍してほしい人材ならば、要求を認めてもいいはずだ。

また、なぜその従業員は給与の増額を要求したのか、という点もポイントになる。ビジネススクールに通うためか、結婚のためか、もしかすると負債を相続したのかもしれない。理由がわかれば、ボーナスの増額や貸し付けの実施など、他の選択肢も検討できる。

気の強い人の場合、交渉では相手のことを考えずに自分の事情や主張を押し付けてしまい、対立関係に陥りがちだ。これに対して、谷原弁護士は「気の弱い人は相手の話を聞けますので、双方にとって、よりよい解決策を見出しやすいのです」と語る。

●事前準備は「交渉相手」の側に立つことも重要

交渉に臨むにあたり、谷原弁護士は「事前準備」の大切さを強調する。「気の弱い人は、交渉の場でとっさに言葉が出なかったりして、つい譲歩してしまい、不利な結果に終わるパタ―ンも多いでしょう。その弱点をカバーするためには、事前に自分の考えや方針をまとめておく必要があります」。

事前準備のうち、特に大切なのは以下の4点だという。

(1)自分のニーズを知る(交渉を通じて何を実現したいのか)

(2)自分の強みと弱みの把握

(3)自分が譲れない点と代替手段の検討

(4)自分にとっての交渉期限の検討

「たとえば、従業員が給与の増額を求める場合、(1)について考えることは、何のために給料を上げてもらいたいかです。自己実現のためでしょうか、それとも将来の生活のためでしょうか。それによって、もっと良い方法が浮かんだら、交渉を取りやめても良いのです。また、(2)では、自分の能力などを分析し、強みを前面に押し出す方策を考えます。

(3)ですが、絶対に譲れない増額分の金額を決めたうえで、決裂した後の代替手段を考えます。(4)については、その代替手段を選択できる期限も含めて検討を行います」

さらに、(1)~(4)の「自分」を「交渉相手」に代えて検討を行うことが重要だという。それが終わったら、今度は、相手の主張とそれに対する反論や、譲歩してもよいところと守るところの切り分けを整理するなど、交渉の筋書きを何パターンか作る。交渉前には、事前練習も欠かさず行い、本番に臨む。

これらの一連の準備は、谷原弁護士が実際に弁護士として交渉に臨む際に行っていることだという。

●幼少時は気が弱く、いじめられた経験も

ただ、谷原弁護士も、子どものころから弁が立っていたわけではないそうだ。幼少時は気が弱く、いじめられた経験もある。

谷原弁護士は「幼稚園のときは靴を隠されたり、殴られたりしていました。悔しかったですが、相手が強いからと諦めて立ち向かいませんでした」と振り返る。小学校低学年のころには一時、逆にいじめっ子になったこともあったが、いじめられる相手を見て過去の悔しかった気持ちを思い出し、そうした行為は慎むようになったそうだ。

小学校、中学校、高校時代は無口な少年として過ごし、大学では法学部に入学。弁護士になろうと考えたのは、大学3年の春だった。司法試験の勉強の中で、谷原弁護士は「武器」を手に入れることになる。

「法律学というものは、非常に論理的なんです。それを学ぶうちに、論理的に話す力を身につけました」。今まで無口であまり話せなかったのが、何を言われても論理的に反論できるようになっていた。

そうすると、今度は逆に相手を言い負かさないと気が済まなくなる。手に入れた武器の魅力が強烈すぎたのだろうか。相手に勝つことを目指す弁護士生活がスタートした。

しかし、いくら勝訴しても、裁判が長引いたりお金を回収できないなど、依頼者にとってメリットのある結果を導き出せない。「たとえ言い負かしても、交渉が決裂して終わりなど、結果が伴わないんです。強気の人が陥りやすい交渉パターンと同じですね」。

交渉に関する書籍を片っ端から読み、これだと思った本のノウハウを応用するが、なぜかうまくいかない。その本のノウハウは、交渉相手が互いに冷静であることが前提だが、裁判ではそれが当てはまらず、適用が困難なためだった。谷原弁護士は、心理学の本や自分および他人の感情分析を通じ、「人間は、理性よりも感情で動く」ということを悟った。

それ以降は、最初に交渉相手の「感情」に配慮することにした。まず、相手の話を聞く。相手は感情を表現したがっており、それを話し切らないと、こちらの話を聞く気にはならない。我慢するのではない。相手の話は、交渉を進めるのに必要な情報の宝庫であり、「感情に配慮しながら情報を収集する」のだという。

谷原弁護士の交渉術は、こうやって数々の試行錯誤の末に編み出された。

「努力を諦めなければ、交渉で結果を出すことは誰でもできます。交渉が得意になると自分に自信がつきますし、生き方や考え方を変えるほどのインパクトがあるのです」

こう語る一方、いまだに、ああすれば良かった、こう言うべきではなかった、などと反省することもたびたびあることを打ち明ける。試行錯誤を続けながら、新たなノウハウを日々積み重ねている。

谷原弁護士のインタビュー動画はこちら。

https://www.youtube.com/watch?v=m-ERSTjM0Kg

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

谷原 誠
谷原 誠(たにはら まこと)弁護士 みらい総合法律事務所
1994年、東京弁護士会登録。著書に「人を動かす質問力」(角川書店)他多数あり。テレビ朝日「報道ステーション」他テレビ出演も多数。 ブログ:http://taniharamakoto.com/ 弁護士による交通事故SOS:http://www.jikosos.net/ 弁護士ドットコム紹介URL:http://www.bengo4.com/tokyo/a_13101/l_121226/

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