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「完璧な引き継ぎ資料を作れ」退職時に上司から圧力、どこまで応える必要がある?
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「完璧な引き継ぎ資料を作れ」退職時に上司から圧力、どこまで応える必要がある?

「どうしても退職するなら引き継ぎの資料を完璧に作ってからにしろ、それ作ってる間の給料は出さん」。上司からこんな心無い言葉をかけられた会社員が、翌日から出社しなくなったという事例がツイッターで話題になった。

投稿によると、この部下はただ辞めただけでなく、プログラムのソースをすべて削除してしまったそうだ。ツイートは11月29日の投稿以来、2万回以上RTされており、投稿主の元には「似た状況を身近で体験した」「電子ロックのパスワードを全部書き換えられた」といった体験談が寄せられている。

「引き継ぎ」は義務なのだろうか。また、退職にあたって、データを消してしまったり、自分しか理解できないようにプログラムを書き換えたりすることは問題ないのだろうか。川岸卓哉弁護士に聞いた。

●引き継ぎをしなくても、責任を負う可能性は低い

ーー引き継ぎをせずに、辞めることはできる?

会社が「引き継ぎが終わるまで辞めさせない」と言ってきても、予告期間さえ置けば、引き継ぎ書が完成していなくても辞職できます。ツイートの人のように、退職を申し出た後、一切出社しなくても、予告期間が経過すれば退職は有効なのです。

会社が脅迫するなどして働くことを強制することは、労働基準法5条の「強制労働禁止」にあたり、刑事上1〜10年の懲役、または20〜300万円の罰金に処せられます。

ーー予告期間はどのくらい?

予告期間については、民法627条に定めがあります。正社員(期限の定めのない雇用契約)の場合、月給制ならその月の前半に予告すれば、翌月以降に辞職できます。

年俸制の場合は3カ月、時給や日給制なら2週間の予告期間を置けばいつでも辞職できます。

他方、いわゆる有期契約社員(期限の定めのある雇用契約)の場合、契約期間中の辞職は、「やむを得ない事由」があるときしかできません。たとえば、労使の信頼関係が破壊された場合などです。

ーー引き継ぎしなかったら、ペナルティーがあるのでは?

会社から損害賠償を請求される可能性はあります。

とはいえ、裁判例では、労働者に対する損害賠償は制限し、業務遂行上の注意義務違反があっても、「重大な過失」とまでは言えない場合には、損害賠償を認めない傾向にあります。会社は労働者から利益を得ている以上、損害についても引き受けるべきという考えに立っているからです。

したがって、通常の退職の際に、引き継ぎをしない、あるいは引き継ぎが不十分であっても、損害賠償が認められることはまずありません。ただし、今回のように、プログラムのソースを書き換えたりするなどの「嫌がらせ」をして、会社に損害を与えた場合には、損害賠償責任を負うリスクがあります。

会社としては、無理なく引き継ぎのうえ退職してもらえるような環境整備がポイントになります。しかし、現実には退職の際、無理な要求をしてくる会社も存在します。法的根拠を示した内容証明郵便1通で解決することは多くありますので、心配なときは、専門家にご相談をお勧めします。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

川岸 卓哉
川岸 卓哉(かわぎし たくや)弁護士 川崎合同法律事務所
日本労働弁護団、神奈川過労死被害対策弁護団所属。多くの労働に関する裁判事件を扱うとともに、労働NPOワーカーズネットかわさきを立ち上げ、深夜街頭相談やSNSなどを使い労働問題の掘り起こしにも取り組んでいる。グリーンディスプレイ青年過労事故死事件の解決を通じ、勤務間インターバル規制の早期導入を訴えている。

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