「新人3人が3日でバックレたってさ」。人の出入りが激しく、労働環境も劣悪な「ブラック企業」に勤める真彦さんは、転職で入社してきた3人が、たった3日間働いただけで、突然姿を消してしまったと聞いて驚いた。
この3人の在籍時を知る同僚によると、3人は、イケイケのIT企業だと思って入社したら、ゴリゴリの営業会社だったことに気づいてしまったと話していたそうだ。始業前に朝礼や掃除を強制され、社風も「何か違うぞ」と思い始め、3人で話し合って一斉に姿を消してしまった。
3人は退職届も出さずに姿を消してしまったというが、いわゆる「バックレ」にはどんなリスクがあるのだろうか。また、もし退職届さえ出していれば、以後は姿を消してしまっても問題ないのか。大西敦弁護士に聞いた。
●損害賠償請求されるリスクは?
バックれた場合、雇用関係はどうなるのか。
「退職届を出さずに姿を消してしまった場合、会社とその従業員との間の雇用契約は継続しているわけですから、従業員であるにもかかわらず、労務を提供しないという状態が継続します。
その場合、会社としては、労務不提供、さらには突然の退職によって会社に生じた損害について、損害賠償請求することが考えられます。
今回のケースは、新人3人が相談の上で、姿を消したとのことです。会社の規模、その従業員が行っていた業務内容にもよりますが、1人が姿を消すよりも、3人まとめて姿を消す方が会社に生じた損害が生じる可能性は高いのではないかと思います」
では、退職届を出した上で、即座に姿を消せばよかったのか。
「退職届を提出した場合でも、退職の効力は退職届から2週間で発生することから(民法627条1項)、2週間を待たずに姿を消した場合には同様の問題が生じることになります。
しかし、会社による損害賠償請求が認められることはかなりハードルが高いと言えます。
その従業員が労務を提供しなかったとしても、他の従業員がその業務を代替したような場合には会社としての損害は生じていないということになりますので、損害賠償請求が認められることは困難です。
また、突然の退職が生じた場合、他の従業員を確保する必要が生じることから、求人、採用に関する費用について損害賠償請求できるかという問題がありますが、一方で、従業員には退職の自由がありますので、そう簡単に認められるようなものではありません。
従いまして、いわゆる『バックレ』、突然の退職による損害賠償請求が認められる可能性は低いとは思いますが、それでも感情的な問題や他の従業員が退職しないようにする企図で訴訟提起されるようなこともありますので、退職届を提出した上で、退職するのが無難ではないかと思います」