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遺産分割後に発覚した「実兄の使い込み」 相続の不足分、後になって請求できる?
画像はイメージです(C-geo / PIXTA)

遺産分割後に発覚した「実兄の使い込み」 相続の不足分、後になって請求できる?

半年前におこなった遺産分割は正しいものだったのか? そうモヤモヤを感じる方が、「再度、分割を行うことはできるのか」と、弁護士ドットコムに相談を寄せました。

相談者によれば、半年前に父が亡くなり、相談者の兄が主導して相続協議を行ったそうです。父の退職後の介護と通帳管理は兄が行っていたこともあり、相談者は納得し、分割協議の書面に押印したといいます。

ところが最近、ふと気になり兄に父の通帳を見せるよう頼んだところ「なんで?遺産分割は終わった。見せる必要はない」と言われ、不信感を抱きました。そこで調べたところ、父が要介護になった頃から不定期に、20万、30万と大きな金額が何度も引き出されていました。

さらに父の預金残高は、分割時に聞いていた額よりかなり多かったそうです。遺産分割を終えた後でも、遺産の内容を正確に教えられていなかったとして兄に追加分を請求したいと考える相談者ですが、それは認められるのでしょうか。白土文也弁護士に聞きました。

●預金の使い込みは遺産分割とは別に処理される

——聞いていた遺産の内容が実際には異なっていたようです。

まず、預金残高について十分な情報を与えられていなかったことから、錯誤を理由に遺産分割協議の取消しを主張できる可能性があります。

もっとも、預金残高がわずかに異なっていただけで錯誤とされるわけではなく、一般的に正確な残高を知っていたら遺産分割に合意をしなかったであろうという場合に錯誤が認められます。

また、預金残高を容易に確認できたにもかかわらず確認を怠っていた場合は、重大な過失があるとして錯誤が認められない可能性もあるでしょう。

——相談者の兄が預金を使い込んでいたことは、遺産分割でどのように扱われますか。

預金の使い込みは「使途不明金」と呼ばれ、基本的に遺産分割とは別に処理されます。

今回のケースについて、生前に正当な理由等なく兄が使い込んだのだとすれば、被相続人である父は兄に対し、損害賠償請求権または不当利得返還請求権を有しています。

これらの債権も相続財産ですが、遺産分割の対象とはならず、相続開始と同時に法定相続分の割合に従って当然に分割されて相続されますので、相談者は兄に対し、使い込んだ額の半分を請求することが可能です。

——相談者としては遺産分割の内容や使い込んだ金銭について納得がいっていないようです。

兄が錯誤取消しの主張を受け入れた場合は、遺産分割が無かったものとして、改めて遺産分割協議を行います。使い込んだお金も請求すれば応じてくれるかもしれません。

兄が応じてくれない場合、遺産分割については、遺産分割無効確認の調停を申し立て、解決しない場合は訴訟提起することになります。

使途不明金についても訴訟提起は可能ですが、証拠を元に、個々の使い込みを一つずつ主張立証する必要があります。また、時効の問題もありますので、訴訟が可能か否かについては十分な検討が必要でしょう。

プロフィール

白土 文也
白土 文也(しらと ぶんや)弁護士 白土文也法律事務所
第二東京弁護士会所属。2005年、司法試験合格。合格後、ベンチャー企業で2年間勤務。司法修習を経て都内法律事務所に勤務。中国上海市の法律事務所で1年間の勤務の後、2014年、白土文也法律事務所を開設。遺産相続、民事信託(家族信託)・後見、事業承継、廃業支援(会社の解散・清算)、不動産問題など超高齢社会向け業務と中小企業や税理士・司法書士など士業の顧問弁護士業務を中心に取り扱う。

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