「亡くなった父は、前妻との間にも子どもがいます。遺産相続はどうなるのでしょうか」。弁護士ドットコムにこのような相談が寄せられている。
相談者の父親は前妻と協議離婚し、母親と再婚した。父親と前妻の間には子どもが1人おり、その子が5歳のころに離婚が成立。それ以降、父親は前妻との間の子どもと疎遠になっていたという。相談者がそのことを知ったのは高校生のころだった。
相談者は父親が亡くなるまで面倒を見て、最期を看取った。母親はすでに他界しており、相談者はひとりっ子だ。しかし、父親と前妻との間に子どもがいる。
このような場合、遺産は2人の子どもで半分ずつになるのだろうか。相続に詳しい五十嵐里絵弁護士に聞いた。
●遺産相続に物申したい際に利用できる制度「寄与分」
——父親の面倒を見た相談者としては、半分ずつの相続に不満があるようです。
一人で父親の介護をしてきたのに、何もしなかった前妻との子どもと半分ずつということではなかなか納得できないというご相談者さんの気持ちはよく理解できます。
そこで、民法で定められた相続分にしたがって遺産を分けたのでは不公平だという場合には、「寄与分」という制度を利用することが考えられます。
——どのような制度でしょうか。
複数の相続人のうちの一部の人が、被相続人(今回は父親)に何らかの貢献をしていた場合に、その貢献した分を寄与分として認め、寄与分を認められた相続人はその分だけ多くの財産を相続することができるという制度です。
きょうだいが同じように親の面倒をみているというケースの方が少ないと思うので、実際のケースでも寄与分はよく主張されます。
●「寄与分が認められるハードルはなかなか高い」
——寄与分の主張は容易に認められるものなのでしょうか。
私の経験上、寄与分が認められることはあまり多くありません。
寄与分が認められるのは、被相続人への「特別の寄与」があった場合なのですが、特別の寄与というのは、相続人と被相続人の関係から通常期待される程度を超える行為が必要とされているからです。
たとえば、同居して食事の世話をする、買い物を手伝う、お見舞いや病院への送迎をするなどというのは、親子であればそれくらいはする、という範囲に入ってしまうので、特別の寄与にはなりません。
他方、通常であればヘルパーを頼んで介護してもらう状態の親の面倒を見たので、ヘルパーに頼まずに済んだというような場合には、ヘルパーに払うはずだった費用は寄与分として認めましょう、という話になります。
——今回のケースで寄与分は認められるのでしょうか。
これまで述べたように、寄与分が認められるハードルはなかなか高いのですが、相談者さんの場合は、父親の要介護度や具体的な介護の内容によっては寄与分を認められることもあると思います。
ただ、寄与分の存否についてゴリゴリ争うというのは、本格的に紛争に発展した場合だと思いますし、相続人全員が納得すれば法定相続分とは異なる分け方もできます。
相談者さんの場合も、まずは前妻の子どもにこれまでの経過をわかってもらうよう話をしてみて、話し合いで解決できればいいですね。