「彼氏に執着している既婚女性がいます。どうしたら良いでしょうか」。40代の女性から、こんな相談が弁護士ドットコムに寄せられました。
今回の相談者の彼氏は、出会い系で知り合った既婚女性(50代)と体の関係を持ったことがあるそうです。一度きりの「遊び」と割り切っていた彼氏。しかし、女性は交際が始まったと思い込み、何度も電話やLINEがあったといいます。
相談者と交際を始めたと知ると、女性の行動はエスカレート。彼氏の勤務先に電話したり、突然訪ねたりするようになったそうです。また、家に勝手に入ったり、飼い猫を捨てたりしたこともあるといいます。
相談者は「女性はSNSでも彼に対する誹謗中傷を書き続けています。『別れるならば、あなたの大切なものを1つ失くして』とも言ってきました。彼からやめてほしいと伝えても、状況は変わりません」と恐怖を感じている様子です。
このような場合、どのように対応すればよいのでしょうか。髙橋裕樹弁護士に聞きました。
●刑法、ストーカー規制法、動物愛護法などが規定する犯罪にあたる可能性も
ーー相談者の彼氏が女性から受けた行為は、犯罪にあたるのでしょうか
「はい。女性の行為はいずれも刑法、ストーカー規制法、動物愛護法などが規定する犯罪行為にあたる可能性があります。
まず、勤務先への電話や突然の訪問は、彼氏に対する『つきまとい等』としてストーカー規制法違反、また勤務先に対する威力業務妨害罪(刑法234条)になり得ます。
ストーカー規制法にいう『つきまとい等』とは、簡単にいうと、フラれた腹いせにつきまとったり、自宅や勤務先、学校等に押しかけたり、近くをうろついたり、電話を掛けたりする行為などをいいます。
ストーカー行為に対しては、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科せられます(ストーカー規制法18条)。威力業務妨害罪(刑法234条)は3年以下の懲役または50万円以下の罰金となります」
ーー家に勝手に入ったり、飼い猫を捨てたりする行為も犯罪になりますか
「なります。家に勝手に入ることは住居侵入罪(刑法130条)となり、3年以下の懲役または10万円以下の罰金が科せられます。
また、飼い猫を捨てる行為は動物愛護法(動物の愛護及び管理に関する法律)違反として、100万円以下の罰金が科せられることになります(同法44条)。
ペットは捨てられてしまうと、自力での生存が困難で衰弱死してしまう可能性が高いですし、生態系を乱す恐れもあります。同法では、ペットの殺傷や置き去りだけでなく、遺棄(捨てる行為)も処罰対象としています」
●名誉毀損、侮辱、脅迫、強要などの罪にあたる場合も
ーーSNSでの誹謗中傷も犯罪にあたるのでしょうか
「女性が書き込んでいる内容が、彼氏の特徴やエピソードなどの事実であれば名誉毀損罪(刑法230条)、『バカ』などの評価であれば侮辱罪(刑法231条)が成立する場合もあります。
名誉を害するような言動は、ストーカー規制法の『つきまとい等』にも含まれますので(同法2条1項7号参照)、ストーカー規制法違反としての処罰も受ける可能性もあります」
ーー「別れるならば、あなたの大切なものを一つ失くして」という女性の言葉はいかがでしょう
「前後の文脈や趣旨が明確ではありませんが、相談者と別れることを強いるような言動であったり、要求に応じなければ今後もストーカー行為を継続することをちらつかせていたりするのであれば、ストーカー規制法違反(義務なき行為の要求)や脅迫罪(刑法222条)、強要罪(刑法223条)などにあたる可能性があります」
●「身を守るためにも、できるだけ早く警察に相談を」
ーー女性のストーカー行為をやめさせることはできますか
「ストーカー規制法では、警察本部長などが相手女性に対して『つきまとい等をやめなさい』という警告を出すことができるようになっています(ストーカー規制法4条)。また、都道府県の公安委員会も『つきまとい等』を繰り返し続ける恐れがある相手に対して、禁止命令を出すことができます(同法5条)。
もし、相手女性がこの禁止命令に違反した場合、単なるストーカーよりも2倍重い罰則(2年以下の懲役または200万円以下の罰金)が科せられます」
ーー相談者や彼氏は、今後どのような対策をとるべきでしょうか
「ストーカー行為をやめさせるためだけでなく、身を守るためにも、できるだけ早く警察に告訴状や被害届を提出したり、相談したりすることが大切です。
なお、やった、やっていないという水掛け論にならないように、写真や動画の撮影、録音、SNS投稿のスクリーンショットなどの方法により、相手女性がおこなった行為をしっかりと記録し、保存しておくことも必要です」
●民事上の請求は「慎重に」
ーー相談者の彼氏が女性に慰謝料を請求することはできるのでしょうか
「可能です。ただ、女性の夫がこの機に離婚を考え、相談者の彼氏に慰謝料請求をしてくる可能性も考えられます。一般論としては、ストーカー被害に対する慰謝料よりも、不貞慰謝料の方が高額になる可能性があります。
不倫の相手には、特段の事情がない限り、離婚慰謝料(離婚したことによる慰謝料)は請求できないという最高裁判決が2月19日に出ました。しかし、不倫の相手に対して不貞慰謝料(不倫したこと自体に対する慰謝料)を請求できるのは明らかです。
つまり今回のケースなら、女性の夫は、相談者の彼氏に不貞慰謝料の請求ができます。相談者としては、身を守るためにも警察への相談や告訴などはおこなうべきですが、民事上の請求は『やぶ蛇』にならないように慎重に対応すべきでしょう」