2019年04月07日 09時56分

AV出演は「自己決定」なのか 「サインがあれば強要ではない、は絶対にちがう」

AV出演は「自己決定」なのか 「サインがあれば強要ではない、は絶対にちがう」
元AV女優の松本亜璃沙さん(左)とAV女優の神納花さん

若い女性がアダルトビデオへの出演を迫られる「AV出演強要」など、AV業界を取り巻く問題について考えるシンポジウム「AV問題を考える会」(AV男優の辻丸さん主催)が2月16日、都内で開かれた。現役AV女優の神納花さん、元AV女優の松本亜璃沙さんのほか、映画監督の森達也さん、グラビア女優の石川優実さん、ライターの小川たまかさんが登壇。シンポ後半では、「強要」をどう捉えるかという議論に入った。

●AVの撮影現場に、女性がもっといれば変わるだろう

森達也さん(以下、森):ブラック企業でも言われている問題だから、特殊な問題じゃないと思います。一番の根源にあるのは、男性が、女性のリビドー(性的衝動)をわからないからです。厳密に言えば、(男性である)辻丸さんのリビドーもわからない。ただ、男だから、ある程度わかる。僕はまだ女性のリビドーがわからない。だって、女性にはなれないから。女性の意識の内側がわからないけど、根底にあるのは男性社会になっているから。

AVの撮影現場に、女性がもっといれば変わるだろうと思います。政治でもなんでもいいですが、女性が進出する社会になれば、構造はガラッと変わると思います。女性はもっと社会進出してもいいと思うし、国は女性優位にしていいと思います。そうすれば、AV業界も変わるのでは。

小川たまかさん(以下、小川):性被害者の話になったときに、政治のほうに持っていくのはやめてほしいです。「左翼・右翼」にからめて叩くとか、めんどうくさくて仕方がないです。

辻丸さん(以下、辻丸):「シングルマザーのAV女優はモテるはず。結婚相手にも苦労しないはずなのに、彼女たちはAV女優への道を選んでいます」(編集部注:AV人権倫理機構の河合幹雄理事の記事より)と書いてますが、つまり「女は顔がよければモテる」と? こういう決めつけがあり、男はみんなそうです。ヒールの高い靴の強制反対に対して、多くの男性たちは驚いた。だったらなんとかしようと言う人と、今まで平気だったからと言う人と、フェミニストが騒いでいると言う人。男と女の無理解があります。「女はこうに決まっている」と思っている。

●「AV村と一般社会」「男性と女性」という枠組みで考えないほうがいい

神納花さん(以下、神納):もう少し枠を取り払って、一人ひとりの人間を相手にする社会であってほしいと思っています。「AV村と一般社会」とか「男性と女性」という枠組みで、考えないほうがいいと思います。枠組みで考えると、自分もその中に入っている安心感を得たかったりして、カテゴリーわけをしてしまうからです。取り払っていくためには、「人間一人ひとりに人権・人格があり、それは一人ひとり違う」という教育をすべきだと思います。

小川:森さんがおっしゃった「0か1」にすごく似ていると思うんですけど、半分だけがわかるということでもいいのではと思います。少しでもムカつくことがあったら、その人の話を聞かないというのはやめたほうがいいと思います。

神納:拒絶しなければ、理解が難しい人からも学べます。お互いのことがわからなくても、こちらがわかってあげようとすれば、相手も理解してくれます。「一人ひとりの人権を自覚する」ということを教育すべきで、AVに入ってくる人たちでも「お互いを大事にしよう」と伝えていけるルール・システムをつくりたいです。

石川優実さん(以下、石川):私もそう思います。グラビアをやっていて、自分の意思が尊重された現場は半分くらいでした。しっかり説明してくれたり、ギャラを細かく言ってくれた現場と、そうじゃない現場はまったく違うわけです。女の子が軽視されていて、お金稼ぎのためだけに使われていて、女の子がどうこういっても変わりません。権力のあるほうが、しっかりと「みんな人間なんだ」という意識を気にしすぎというくらいにならないと変わらないのではないでしょうか。

●AV女優のセカンドキャリアが確立されていない

森:辻丸さん、あなたは30年業界にいるわけだけど、たくさんの泣いている人たちを見てきて、少しでも良くしたい、傷つく人が少ないようにしたいと発言してるんだけど、呼応する人は出てこないのか。

辻丸:基本的に、(業界の人たちは)そういう方面で「目立とう」という意識がありません。女性にモテるような仕事だったら男優も喜んでやるけど、社会問題に取り組もうという人がいません。ある有名女優が「差別されることを知らない」と言いましたが、その女優さんには言わないと思います。監督はうしろめたさがあるから、「悪いのは覚悟のない女優だ」と言います。

松本亜璃沙さん(以下、松本):女優への差別に関して。たとえば、自分が(企業の)人事だったとして、過去にAV女優だとしたら採用できるか。たしかに、差別があると思います。セカンドキャリアが確立されていません。引退しても戻ってきてしまう。引退と復帰の繰り返し。AV倫理機構には、セカンドキャリアの支援をしてほしいです。

辻丸:業界側が、ユニオン的な存在を求めていません。一方で、「女優は個人事業主」と言っているけど、支配構造は変わっていない。表面的には、AV人権倫理機構があるから「ちゃんとやってますよ」というお墨付きがあります。

●やりたくないのに、やらないといけなくなる状況

神納:「自己決定の大切さ」を考えています。お店で働くときもそうだったし、業界に飛び込んだときも、「これから履歴書どうしようかな」と思ったけど、それでもやりたいと思った。結婚、出産、離婚も経験したけれど、自分の意思だから、後悔はしていません。自分の意思だから納得して、満足しています。

日本全体に言えることだけど、自己決定について理解している人は少ない。就職決めるときも、「親がこう言ったから」「先生がこう言ったから」、会社でも「上司に言われたから」という人が多すぎると思います。学校、就職の場面でもそうなんですけど、「自己決定の大切さ」をもう少し一人ひとりに考えさせることが必要だと思います。

石川:自己決定の話なんですけど、ツイッターで「グラビア、AV、風俗、レースクイーン、みなさん、自分で選んでやっているんでしょ」という投稿がありました。もちろん、自分からやっている人はいます。ただ、私の時代は、自分からやりたいといってはじめた人はそこまで多くなかった。「グラビアをやらないとだめだよ」と言われてはじめた人がいて、そういうのは自己決定とは違うと思います。

(かつて)共演した女優さんも「AVをやりたくて、はじめたわけなんていないよ」と言っていました。やりたくないのにやらないといけなくなる。そういう状況になってしまうことを考えないといけません。女の子がどうしても、AVをはじめないといけないときに、業界じゃない人が間に入って説明して、それでも「やりたい」と言えば、それは自己決定ですが、一切説明せずに入れてしまうという体質がよくないと思います。

●悪い意味で、女優を商品扱いしなくなった

小川:AV強要では、(プロダクション等が)洗脳したり、「出演すればスターになれるし、テレビに出れるし、ファンが増えて、良いことことずくめ」と良いことばかり言うと記事に書いたとき、「自分の業界を良くいうのは当たり前じゃないか」という反応がありました。それはそうですが、リスクのある業界なんだから、とことんリスクを説明すべきじゃないか、という立場を取っていくべきです。

神納:そのところをうまく解決しようとして、AV人権倫理機構は「女優は責任能力のある個人事業主だから、強要もされていないし、自分で考えて選んでいる」という契約書をつくっています。それは、とても冷たい話だと思います。昔は、「女優さんは事務所の商品であり、事務所が管理するものであり、何かあったら事務所が悪いよ」と言われていましたが、責任能力のある個人事業主だから、事務所も責任とることもないし、悪い意味で、女優を商品扱いしなくなったと思います。

●強要問題はどんどん忘れられ、なかったことにされている

辻丸:これだけ「Me Too」が起きているのに、強要問題がどんどん忘れられようとしています。AV出演強要という言い方も変えていかなければ。「出演」という言い方にしてしまうから、「出演したんでしょ」「女優でしょ」「それが強要はおかしい」と。被害者からすれば、「AV現場でレイプされて売られたんだ」という人もいる。それなのに業界側は「覚悟が足りない」「嫌ならやめてしまえばいい」として、「だから強要はないんだ」という方向に持っていこうとしています。

強要問題はどんどん忘れられ、なかったことにされています。個人事業主と言われているのに、女優さんの要望が受けいれられなくなっています。今後もずっと(そういう流れが)続いていて、悪い方向になっていく。「Me Too」運動も、オリンピックのあとにはなかったことにされる可能性すらあります。

●単体女優と企画女優で格差がある

(編集部注:シンポ終盤は質疑応答コーナーとなった)

――AV強要の「強要」定義はなんでしょうか。(契約書に)サインすれば「強要」にあたるのでしょうか。事務所との関係や社会的に追い詰められてしまったというのも含めて、強要ですか。だったら、話が噛み合っていないのでは?

神納:たぶん噛み合っていません。被害にあった人の意見を聞くと、「契約書にサインをすることを強要された」「大人の男の人がいっぱい監視している中で、無理やり書かされた。不安な思いで、これを書かないと、家に帰れないんじゃないか」「年齢確認で免許証を出してしまって、コピーされてしまって、名前を書かないと大変なことになってしまうのでは」と。本当に悪徳なところだと、まったく契約書を読ませないまま、急いで書かせて、内容がわからないまま、という話も聞きました。AV人権倫理機構は、出演する意思を固めてきたという証拠をとるために、印鑑を家から持参するというルールを作りました。

松本:(私は)自分の意思で業界に入りました。(当時)契約書は読まされていません。人事に「ここと、こことにサインして」と。その日のうちに、事務所と仲の良かった監督さんのところに連れて行かれて、そこでデビュー作を撮りました。すごいハードでした。(契約内容を)聞かされていなかったということでは、強要だったと思います。

有名な女優さんなら、何を言っても許されますが、(私のデビュー)2本目の撮影で、嫌だなということがあったけど、許されませんでした。それから2年後、私は結構売れていて、同じ監督さんの撮影だったけど、「なんでもOKです」と言われました。売れている女優さんは女王様なので、嫌なことはされていないし、強要はされていません。やっぱり、企画扱いの女優さんだと扱いが違い、格差社会だと感じています。

●「サインがあれば強要ではない」は絶対に違う

辻丸:前回(の「AV問題を考える会」)登壇した元女優さんは「殺人以外なんでもされた」と。そんな人でも「すべては自己責任だ」と言った。また、何を持って「強要」というのかも前回議論されました。(AV監督の)安達かおる監督は「本人がどう思っても、それは犯罪だと問うべきだ」というふうに。一方で、「強要」というと「被害者がどう感じたかではないか」という意見もあります。

森:一般論でしか言えないんですけど、怖い言葉で脅されたり、嘘をつかれたりしても、「この場はサインしたほうがいいのかな」「みんなが黙っているから、黙ったほうがいいのかな」というレベルとおなじ同調圧力で、サインして撮影された場合もあるでしょう。それも含めて強要だと思っています。「サインがあれば強要ではない」というのは絶対に違うと思うし、最終的には、弱いほうが、声が小さいほうが「強要された」と言うのであれば、強要なんです。

もちろん冤罪もあるけど、強いほう、大きなほう、ゆとりのあるほうが、小さいほうを守る。小さいほうが苦痛を訴えれば、それに対して対処するのが、大前提だと思います。それがないのはまずいでしょう。

たとえば、AV女優全員が自己決定したかというと、そうではないと。では、他の仕事はそうでしょうか。みんなそうやって仕事しているわけです。だから、AVというジャンルを特別化してしまうことに気づいた。もちろん特殊な部分もリスクもあるが、そういう部分を勘案しても、同時に、普通の人がやっていることです。ディレクターもプロデューサーも社長もみんな含めて、ふつうの人がやっていることです。ゼロにするのは無理でも、ベターにすべきだと思います。「なんでそうしないの?」と思います。

●権力を振りかざしてセックスしようとするのも「強姦」ではないか

小川:強要問題が報じられたあとで、強要の被害相談を受けた例としては、ホームページ上で、パーツモデルの募集というのがあります。契約書には、動画撮影もします(AVも含む)と書いてあって、「これはみんなに書いてある」という説明。契約書にサインすると、その次の週から、AVの営業周りに連れて行かれて、「もう断れないでしょ。だって仕事が決まった時点で人件費かかっている」と言われる。それは詐欺じゃないかと思います。

石川:「Me Too」のときに、グラビアの露出強要があったという記事を書きました。事前に聞いていた露出の話じゃなかった。マネージャーが「OKだ」と勘違いしていた。私が「ダメ」と言ったけど、出版社に聞いたら、「その露出がOKで仕事を受けているから、もう断れない」と。自分で断って逃げ出すことができませんでした。

その話をすると、当時は「自己責任」といわれることが多かった。今は強要と言われるが、そう思ってもらえない時期がありました。AV強要でも、無理やり押さえつけられたときしか、想像できていないのではないかと思います。(強姦の場合)いきなり車に連れ去られて、無理やりされたことが強姦とされます。しかし、許可をとらずにしたのも、権力を振りかざしてセックスしようとするのも強姦だろうと思います。そういう認識の違いがどちらにも同じように出ています。

辻丸:業界側は「ファンタジー」という言葉でごまかしています。ファンタジーだからそんなおかしなことはない。強姦だとどういうことか、男もわかるが、AVで強要と言われるとわからない。「AV現場でレイプされたんだ」というふうに持っていくべきです。ブラック企業のパワハラもまさに強要です。男性だったらなおさら「覚悟が足りない」という言い方をされる。決して、男性も他人事じゃないというふうに強要問題をとらえていただきたい。

●男優の中には「人間扱い」されていない人も

――出演されている人に聞きたい。どういう理由で業界に入って、今それをどう思っているか。男優さんの場合はギャラの違いがあるのか。

神納:(私の場合は)好奇心です。いろいろ勉強したいと思って、業界に入りました。実際やってみて、メーカーだったり、現場だったり、作品の趣旨だったり、本当にピンからキリまで。自分が望んでいたものを学べる現場もたくさんありました。なんでやらないといけないのか、と思う現場もありました。そう思ったときも、「これを撮っている監督のことを知ろう」と思うことで、自分のエネルギーに変えていました。

俗にいう「汁男優」にも背景があります。単純に興味がある人もいれば、出すことに命をかけている人もいます。事情がいろいろある。たくさん学ぶために現場に行っています。結果として、そういうことを勉強できて良かったと思います。

松本:最初は、お金がきっかけで業界に入りました。1年くらいやってから、作品をつくりあげる楽しみが出てきて、「もっと売れたい!」という気持ちに変わっていきました。当時の旦那さんに(出演が)バレてからは、「隠さずにやっていこう」と思って、パブ全開で売れました。そこから、ものづくりとかお金だけじゃない、楽しみを見出せました。男優のギャラは擬似(本番)だと同じですか。

辻丸:同じではないです。

松本:だいたい「1作品いくら」という感じですよね。

辻丸:男優は女優より理不尽で、人間扱いされていない人たちがいます。AV創世期のころは差がなく、みんな同じでした。それが、数が増え、ピラミッド型になって、ギャラも差ができて、中堅や下の人は、上に対して何も言えません。ぶっちゃけ、なんで男優になるかと言うと、みんな金を稼ぎたいから、ただのスケベ。それだけのことです。そのうちにプロ意識が芽生えてくる。基本はスケベ心です。世間は、同じ本番じゃないかと見てしまう。

(弁護士ドットコムニュース)

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