2019年04月06日 09時37分

AVの「本番至上主義」は本当にクリエイティブなのか 女優や映画監督らが白熱議論

AVの「本番至上主義」は本当にクリエイティブなのか 女優や映画監督らが白熱議論
グラビア女優の石川優実さん(左)とライターの小川たまかさん

若い女性がアダルトビデオへの出演を迫られる「AV出演強要」など、AV業界を取り巻く問題について考えるシンポジウム「AV問題を考える会」(AV男優の辻丸さん主催)が2月16日、都内で開かれた。現役AV女優の神納花さん、元AV女優の松本亜璃沙さんのほか、映画監督の森達也さん、グラビア女優の石川優実さん、ライターの小川たまかさんが登壇。シンポ前半では、AVの「本番行為」について、白熱した議論となった。

●割り切れないからといって、考えることを放棄してはいけない

辻丸さん(以下、辻丸):とりあえず、今のAV問題に関して、最初にご挨拶がてらいただきたいと思います。まずは森さんからお願いします。

森達也さん(以下、森):こんにちは。2年前くらいに辻丸さんと初めて会いました。非常に勉強家で、しかも、僕の本と映像をほとんど見てくれていました。B級監督なので、うれしく思っています。(辻丸さんが)ほぼ孤軍奮闘と聞いて、感じるものがあって、「僕にできることがあれば何かお手伝いもしますよ」と言ったのが、運の尽きでした。

強要問題は、とても普遍的な内容を抱えていると思います。たとえば、レイシズムだったり、まさしく「Me Too」(セクハラや性被害体験を告白する運動)だったり、あるいはジェンダーだったり。とてもデリケートで、グレーゾーンだから、簡単に割り切れないけど、割り切れないからといって、考えることを放棄してはいけないと思います。

苦しんでいる人や泣いている人、傷ついている人について、どうしたらいいかと考えるのは、とても重要なことです。でも、なかなか、それができる社会ではないのは日々感じています。やっぱり、一番重要なことは「自分を除外しないこと」です。その中に「自分も入っているんだ」ということです。それを忘れないように、自分がこの問題に直面したらどうなのか。

いろんな場で話を聞いたり、考えを表現したり、その考えに対する意見を聞いたりすることは、とても大事だと思いますので、今日みなさんからの視点を楽しみにしてます。

●どの業界・どの企業にも、構造的にブラックなことは存在する

小川たまかさん(以下、小川):私は2006年ごろからライターをしています。AV女優さんの取材も、たくさんではないが、仕事がくるたびにやったこともあります。2010年ごろ、当時人気だった女優さんと吉田豪さんとの対談の構成をしたことがあります。その女優さんは、本の中で、強要だったとはっきり書いています。その(対談の)とき、強要問題は出ていなかったんですけど、その本を読んで「ウソだろうな」とは思えなかったし、「そういうこともあるんだろうな」と受けとりました。吉田豪さんもそういうふうに聞いていらした。

それから3、4年経って、(AV強要の)被害者相談をしているライトハウスさんを取材する機会がありました。当時は、外国人女性についての取材だったんですが、そのときに「最近は日本人からの相談も増えているんですよ。たとえばAV出演を強要された(というものです)」という話が出てきました。私がそのとき書いた記事は、AV強要(がメイン)じゃなくて、ライトハウスの紹介の中で、最後のほうにちょっと出てくるだけでした。ただ、そこだけに反応して、「そんなの今の時代にあるわけないじゃん」という批判が結構あったことに少し驚きました。

それから1年くらい経って、AV強要がホットトピックスになりました。シンポジウムに行って記事を書くと、しばらくはバッシングがありました。「絶対ない」「今どきそんなことはない」という反応がいっぱいありました。AV業界だからそういうブラックなことがあるのではなくて、どの業界・どの企業にも、構造的にブラックなことは存在すると思っています。そういうつもりで書いたのですが、「AV業界を否定するのか」という反応は意外でした。

それから2、3年経って、「AV強要は当たり前のようにある」という認識が広がっていると思っていたのですが、最近でも「あなたはメーカー側に取材したんですか」「プロダクション側に取材したんですか」という声があって、まだ「AV強要はない」というスタンスの人がいるんだな、というふうに思いました。

●ギャラが10年後には3分の1に

松本亜璃沙(以下、松本):私は2004年に(AV女優として)デビューして、丸4年経った2008年に引退しました。その後、2015年に復帰して、一昨年(2017年)きっぱりやめて、今は恋愛アドバイザーとして活動しています。

私が(2015年に)復帰してびっくりしたのは、ギャラの安さです。(デビューしたころの)3分の1くらいに減っていたんです。昔はほとんど本番だったんですが、復帰したときは3分の1くらいが擬似(性交)。擬似だと、下半身的には楽なんですけど、労力は変わりません。なのに、ギャラが3分の1くらいに減って、「夢のある職業じゃないな」と思いました。AV女優は顔バレのリスクもあるけど、高いギャラをもらえて「夢がある」と思っていたんですが、「やっててもしょうがないな」と足を洗いました。

AV強要は「ある」と思います。確実に。メイクさんから「この間の女優さん、『ヤダヤダ』と言って泣きながら撮影が大変だったんだよ」と聞きたことがあります。ある女優さんも「歌手にならせてあげるよ」と言われてスカウトされて、本当はやりたくなくて泣いていた、とかありました。強要問題について、みんなで考えなければならないと思います。

●事務所と女の子の間に力関係があって、断れないことはある

石川優実さん(以下、石川):(現在)グラビア女優とライターをしています。今から14、15年前に高校を出てグラビアをはじめたのが、この業界に入ったきっかけです。今もグラビアはやっています。

日本で「Me Too」が流行ったときに、(グラビアの仕事で起きたことを)記事に書いて、世の中に出したことをきっかけに、ジェンダーや強要問題の勉強をはじめました。構造的にAVと同じだと思うのですが、(撮影)現場に行って、聞かされていない露出をさせられたり、契約にない露出をさせられることが、当たり前にありました。自己責任と責められることが結構あって、何も言えずにいました。「Me Too」のときに書いて、間違っていることだと気づきました。強要問題と地続きだと思っています。

長い間グラビアをやっていると、AVに出る女の子がいて、自分から「わたし、AVに出たいです」というのはあったかもしれないけど、そうではない子は追い詰められていたように感じています。

この間、中央大学の「AVの教科書化に物申す」というイベントに出ました。男優さん、女優さん、監督さんがお話をされていましたが、そのときに監督さんが「ちゃんとしたメーカーさんなら強要はない」とはっきりと言っていました。(しかし)メーカーと事務所の問題ではなくて、事務所と女の子の間に力関係があって、(仕事を)断れないことがあります。なぜ、そうはっきり「(強要は)ない」と言えるんだろうと思いました。

私も、(AV強要は)絶対あると思っていますが、全部がそうだとは思っていないし、強要されている人とされない人もいると思うし、されている人をなんとかしないと思っているし、強要される人が出ないように、撮影の仕組みなどを考え直すような時期ではないだろうかと思っています。少しでも変えていけたらいいと思います。

神納花さん(以下、神納):私がAVの世界にきたのは、今から10年前の2009年です。強要されたわけでも、人生に行き詰まったわけでもなく、純粋な好奇心で(AV女優に)応募しました。私は、昔からセクシャルなことについて考えるのが好きでした。カミングアウトになりますが、20歳のころからSM店で働いたり、風俗店で働いている女の子と積極的に友だちになったりしていました。

(多くの人が)初めてセクシャルなことに触れるのは、AVだと思います。もちろんグラビアもありますけど、日本の多くの人たちが、セックスに挑むときに参考にしているのはAVです。好奇心で飛び込んで来た人間なので、私の意見も紹介できたらと思います。

●「AV=本番」が変わりつつある

辻丸:今の話を聞いて、誰かに質問や感想などありますか。

森:特に質問はないけど、石川さんがおっしゃったように、強要された人もいれば、いない人もいるだろうと思います。されてない人に聞けば「強要はない」と言うだろうし、されてる人に聞けば「強要はある」と言うでしょう。AV強要について「0か1か」という風潮があります。ある意味で語りづらい、密室で見るより触るものといったようなものが背景にあるからこそ、より一層促進されてしまうということなんだろうなと思いながら話を聞いていました。

小川:松本さんに質問です。2015年に復帰されたとき、擬似が増えたのは、どういう業界の流れがあったのでしょうか。それと、擬似と擬似でないものの線引きはどのように決まるのでしょうか。

松本:(制作費に余裕のある)大手メーカーだけ、本番が多いんですよね。復帰したときに、全然知らないメーカーがいっぱいありましたが、昔より制作費が3分の1くらいに減っていて、出演者に払えるお金も減ったという話を事務所から聞きました。一応、半々でもらっていたんですけど、あまりにも安くて、半年くらい揉めました。

小川:AV全体が売れなくなっていたということですか?

松本:(全体の)本数は増えていますが、売れなくなっていると思います。やっぱり(ネットで違法アップロードの動画などが)無料で見られるのが原因なのでは、と思いますね。そこも変えていかないと。

辻丸:AV創世記の話をしますと、僕の実感としては、6割くらい擬似でした。大手メーカーや(人気の)単体女優さんは、擬似でした。逆に、企画女優は本番でした。作家性のある監督も、本番を撮影していました。他のメーカーは、制作費と相談しながら、売れる・売れないで、本番をやったり、やらなかったり。

今は、一般的に「AV=本番」になっていますが、逆に、企画や予算がないものは、擬似でやっています。逆転してしまったわけです。要するに、商売的な問題なのだろうと思います。「表現の自由」というより「商売の自由」なのではないでしょうか。

●意味のない取り締まりに危惧

小川:本番行為はグレーですか?

辻丸:グレーですね。国はあいまいにしています。

神納:ソープ(ランド)も、グレーなんですよね。売春行為は違法だけど、個人の意思でするのは違法ではない。私としては、グレーであってほしい。仕事を依頼する側は責任を感じたほうがいいが、その仕事を受ける側も「自分がこれで納得できるかな」と考える余裕がなくなっているのではないかと思います。利益を考えると、余裕がなくなっちゃう。昔は制作費があったから、みんな「やりたくない」場合は、意思表示ができたのでは。

小川:私は、グレーである必要があるのか、と思います。法律で「OK」ということにしたらどうか。

森:これまで本番は(法律上)してはいけないと思っていました。ロジックで考えると、モザイクをかければいいと思います。グレーのままでいいのでは。世間の良識を背にして、取り締まる側(国)が、意味のない取り締まりをやってしまうはことを危惧しなければいけません。

小川:グレーを利用して、ひどいことをする人もいます。松本さんもおっしゃっていたように、本番がないのは、女優さんにとって身体的には楽です。どんどん過激か過激でないかになってしてしまうのが怖いです。身体的負担をさせられているのは女優さんなわけで、表現するのに女優さんの身体をなぜ使うのかわかりません。本番行為はみんなできるからやっていることで、そこに「表現の自由」の話が出てくるのはよくわかりません。

松本:AVが「ファンタジー」と言われているからには、(男性器が女性器に)入っている・いないに関わらず、ギャラの差をなくしてほしいです。(パッケージ用などに)「ハメしろ」だけを撮ったとしても、擬似扱いになります。疑似だと、ギャラがガクッと下がります。

●本番がなくてもめっちゃエロいのもあるはず

辻丸:「AV=本番」になってしまって、軽くなってしまったと思います。昔は、倫理的なところも含めて、「本番はやっていいのか?」という問題がありました。昔はフェラといえば、ゴムフェラで、「指入れは第一関節まで」という人もいました。こだわりはありました。

本番が当たり前になって、女優さんが声をあげることができなくなって、常識となってしまった。(私は)よくAV村の常識、世間の非常識と言っていますが、ドクターストップがかかって引退する人もいます。それくらい本番は常識ではないのに、業界は軽く扱って、それがギャラにつながっています。

それはセクハラにも通じる話で、男性側が気づいていません。閉ざされた業界だから、世間に通じない。「決してそうではない」ということを世間に伝えなければいけない。そうしないと、このままなかったことにされてしまう。

小川:「本番こそ突き詰めるべきだ」と業界がなっているんだとしたら、それはクリエイティブと逆になっていると思います。本番がなくてもめっちゃエロいのもあるはず。なぜ本番至上主義になったのでしょうか。

辻丸:業界が考えていないからです。今までやってきたから。「なんで本番なの?」と聞いて、明確に答えられる監督はいない。「今までやってきたから」と答えるだろうと思います。

●女性の「性」を軽く見ている

神納:AVには本番があってほしいと思います。代々木忠監督の影響を受けていると言われるんですが、やっぱり本番があるときの緊張感も独特です。(緊張感のある状況で)男優さんも性的興奮を高めなければいけない。女優さんも性的興奮を高めたほうが膣の筋肉がゆるくなって挿入が楽になる。代々木監督は撮影で、肌の紅潮などが実際に発生するのをこだわっていました。演技で出そうとしても出るものではないから、本番は良いと思います。

石川:(かつて)映画の濡れ場シーンを撮っていて、本当に挿れたほうがいいのでは、と思ったことがあります。お互いの合意があるからよいのでは、と思ったことがあります。今の話を聞いてなるほどと思いました。作っている方も、本番に対する気持ちがあるんだと思いました。

辻丸:作家性にもとづいてやっている女優さんもいるが、業界がビジネス優先主義になっているから、(撮影の)絡みシーンで寝ている監督もいます。女優さん側からすれば、いい加減に撮られている。誇りの高い女優さんたちが、強要問題に関して、強い気持ちをもつことが多い。だからといって、AV業界全体が悪いと言ってるわけではなく、先っぽだけ挿れるとかそういう問題には訴えたい気持ちもあるが、業界が悪いイメージになることに反発していて、なかったことにされています。

松本:2004年ごろは、2日撮り・3日撮り(1本の作品にかける日数)がふつうでした。2015年に復帰したときは、1日で2、3作品の撮影ありました。3本番、3擬似。朝の6時から撮影がはじまって、夜の3、4時に終わる。でも、(もらえるのは)3本番のギャラだけ。本当に割りに合わない仕事だと思っていて・・・ギャラ問題はなんとかしてほしいです。

辻丸:男の感覚で、本番をやることを軽くしています。男尊女卑、女性の性を軽く見ているからです。セクハラも「冗談だ」という。「レイプされたんだったら、最後まで抵抗するだろ。でも抵抗しないのは気持ちよくなったんだろ」と言い、司法の場でもそういったばかばかしいものがまかり通っています。

小川:擬似は、その前までの演技はあるんですよね、なんでノーギャラなんですか。

松本:なんでですかね。

辻丸:AV女優は、演技が下手と言われるが、監督の演出が悪いだけです。台本も当日に渡す。そんなんじゃどうしようもできないのに、作り手側はそれが悪いことだと思っていません。不手際の悪さを棚に上げて、女優さんを軽く見ています。

(弁護士ドットコムニュース)

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