2019年05月08日 09時44分

Twitter戦略に目覚めた労働弁護士の重鎮 「フェイクニュースはつぶす。社会のために」

下山 祐治 下山 祐治
Twitter戦略に目覚めた労働弁護士の重鎮 「フェイクニュースはつぶす。社会のために」
棗一郎弁護士(4月下旬、東京都内)

「フェイクニュースはつぶす。社会のために、ひとつずつ、つぶさないといけない」。こう話すのは、日本労働弁護団の幹事長、棗(なつめ)一郎弁護士。労働法制に詳しいエキスパートとして、政府が進めようとする労働政策の問題点などをこれまで指摘してきた。

世論に訴えかける主戦場は、国会での法案審議や採決のタイミングをにらんでの大規模な集会やデモ、街頭演説などだった。だが、これだけではネット空間に広がるデマやフェイクニュースを何となく信じる層に十分届かないという思いが、日増しに強くなったという。

「重い腰をあげて」(棗弁護士)、Twitterでの情報発信をはじめて2カ月あまり。どのような手応えを得て、今後どうTwitterを活用していくのか。4月下旬、棗弁護士に話を聞いた。(編集部・下山祐治)

●SNS空間を軽視してはいけない

ーーTwitterアカウントでの発信を始めたのが2月下旬でした。始めた経緯を教えてください

2018年の働き方改革をめぐる議論で、私たちの主張を世の中に十分広げることができなかったという大きな反省があります。

働き方改革関連法は、時間外労働の上限規制と専門業務にしぼった適用除外などをセットで盛り込みました。つまり、労働者にとっていいことと抱き合わせにされ、反対しにくい層が生まれてしまったのです。

専門業務にしぼった適用除外というのは、第1次安倍政権が断念した「ホワイトカラー・エグゼンプション」が目指していたものと本質は変わりません。かつて断念した「売れない不良品」との抱き合わせ販売との表現もありましたが、まさにその通りだと感じています。

ところが、政府が目指す働き方改革とは、自由な働き方を推進するために必要なものであるというイメージが強調され、特に若者たちがそこに乗っかってしまいました。「会社にしばられなくていいんだ」という誤解が広がったのです。

ーーこれまで続けてきた反対運動では効果がなかったということでしょうか

効果がないということではないのですが、SNS空間を軽視してはいけないということを実感しました。今回、国会前の座り込みや集会、デモ、街頭演説などをかつてないほど精力的に実施して反対を訴えました。それでも世論の反応はあまりないなと感じたのです。

ーーそこで自らが発信することを始めようと思い立ったのですか

周囲から背中を押され、重い腰をあげて始めることにしました。もともと1日に100件以上のメールに目を通しているのですが、さらにTwitterで発信もというのは大変かなと思っていました。本当はしんどい部分もあるのですが、今では必須のものと捉えています。

●始めて2カ月、フォロワーは2500人超

ーー実際どのような手応えを感じていますか

始めて2カ月あまりで、フォロワーは2500人を超えました。フォロワー数の伸びとしては、「まあまあ」だと周りからは言われます。

これまで労働組合などについて、よく知らなかったという一般の人からの素直な疑問が寄せられることもあります。それに対して、これはこういうことなんですよということを、法律や事件を扱った経験を踏まえて正確に発信するように努めています。

ーーどんな声が寄せられましたか

例えば、コンビニの24時間営業がいいのかどうかという問題では、ある人は、店舗オーナーは独立した事業者なんだから、本部と契約を結んでいる以上、お店を24時間あけるのは当然じゃないかという声が寄せられました。

これに対して、私は、独立した事業者はいつお店をあけるのが経費などの観点から最適か判断して、自ら選ぶことができるけど、コンビニのオーナーはこうした選択ができないことが根本的な問題で、そのために長時間労働になってしまっていることを指摘しました。

さらに、「Uber Eats」(ウーバーイーツ)など雇用に寄らない働き方が広がっていますが、これに関しても片手間で空き時間にやっていれば労働法上の指揮命令下にあるとは言えないとの声が寄せられました。

これについては、解釈が誤っていると指摘しました。運ぶことに対する賃金などにとどまらず、いつまでに運ぶようにということも縛られていて、確実に指揮命令下にあるからです。

アルバイトだろうが、セカンドジョブだろうが、指揮されて働いていて給与をもらっていれば、労働法上の指揮命令下にあり、労働契約が成立しているということになるのです。

●デマ拡散、何らかの規制議論を

ーーフォロワーが多いTwitterアカウントが発信した情報は、例えデマやフェイクニュースと疑われても、拡散していくことで事実であるかのように受け止められる問題がありますよね

はい。まさにそこが大きな問題で、デマやフェイクニュースが拡散することで何となく事実のように認識してしまう人たちがいます。デマやフェイクニュースは、ひとつずつ、つぶさないといけません。健全な民主主義社会のために大変重要なことです。

私も可能な範囲で、Twitterで流れている労働問題に関するデマやフェイクニュースは根拠をもって間違っていることを指摘し、正すよう心がけています。

ーーTwitter社が対策を取るべきだと考えますか

そこはまだ深く検討を重ねたわけではないので、踏み込んだことは言いにくいのですが、何らかの規制を考える議論は必要だと思います。実社会では名誉を傷つける行為は犯罪であり許されません。Twitterのなかでデマやフェイクニュースを流して広がっていくことが許されていいのでしょうか。

意見や論評であればいいのですが、事実ではないことをあたかも事実のように拡散させることはあってはならないと思います。

ーーデマやフェイクニュースをただす報道機関の役割も大きそうですね

そう思います。TwitterなどSNSの力はとても強いですが、やはり大きく世論を形成していくという意味ではメディアによる報道の役割が大きいです。民主主義社会の必須のツールであることは今も昔も変わりません。

フォロワー数が多い人が、極端な発言などを繰り返すと、フェイクニュースはあっという間に広がってしまいます。

そこを報道経験がある記者がちゃんとチェックして、ファクトを踏まえて公正に報じるということが重要です。フェイクニュースに踊らされると、ファシズムにつながる恐れもあります。

ーー今後、Twitterをどのように活用していきますか

しっかりとした確証がある言説を発信するようにしているので、限られた字数とはいえ、それなりに負担にはなっています。ただ及び腰になってツイートしてもあまり共感を得られないと思うので、今後はもっと戦略的にツイートしていけたらと思っています。

(弁護士ドットコムニュース)

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