子どもとの外出は、子どもの思わぬ行動にヒヤリとすることが多いもの。神奈川県在住のミズホさん(仮名・30代)もその1人。事件は、2歳の子どもとテーマパークに遊びに行ったときに起こりました。
「入場するために並んでいたところ、あまりの人混みに子どもが気持ち悪くなってしまったようで、突然嘔吐してしまったのです。前に並んでいた家族の荷物が吐瀉物まみれになってしまいました」とミズホさんは当時を振り返ります。
すぐに謝罪し、クリーニング代を渡そうとしたミズホさん。その家族は「気にしないでください。それより自分の子どもに水分を」と気にかけてくれたようですが、ミズホさんは心臓が止まるかと思ったそうです。
今回は幸いにして、トラブルになりませんでした。しかし、相手によってはバッグや中身、すべてを交換するよう請求してくる可能性があるかもしれません。子どもが他人の荷物を汚してしまった場合、どのような対応が正しいのでしょうか。森本明宏弁護士に聞きました。
●民法上の責任能力、おおむね12歳前後から
2歳の子どもが他人の荷物を汚してしまった場合、クリーニング代や汚れの程度によっては弁償する必要もあるのでしょうか
「他人の荷物を汚してしまい、クリーニング代などの損害の賠償を求められた場合、不法行為に基づく損害賠償として、適正な範囲の損害については賠償義務を負います。
不法行為に基づく損害賠償義務(民法709条)を負う前提として、加害行為を行った者が民法上の責任能力を備えていることが必要です。
今回のケースでは、2歳の子どもですから責任能力(自分の行為から生じた結果が違法なものとして法律上非難されるものであることを弁識する能力)はありません。
ちなみに、民法上の責任能力を備える年齢は、過去の裁判例を分析すると、おおむね12歳前後と判断されています」
親の責任にはならないのか。
「今回の2歳児のように、他人の荷物を汚すという不法行為を行った者が責任能力を備えない場合、誰も損害賠償義務を負わないかというとそうではなく、民法714条により、監督義務者、すなわち、親権者である親が損害賠償義務を負うことになります」
●買い替えを要求された場合は?
「汚れによって精神的な苦痛を受けたので」という理由で、クリーニングや水洗いで汚れがとれる程度のものでも、もし買い替えを要求された場合には、応じる義務はあるのでしょうか。
「『適正な範囲の損害』については親が民法714条により賠償責任を負うことになり、クリーニング代は適正な範囲の損害に該当します。
しかし、クリーニングや水洗いで取れる程度の汚れであるにもかかわらず、買い替えを求められた場合、買い替え費用は賠償すべき範囲には含まれないでしょう。これは交通事故の場合に、修理が可能であるにもかかわらず、車の買い替え費用までは認められないことと同じです」