平昌冬季五輪のカーリング女子で、銅メダルを獲得したロコ・ソラーレ(北海道北見市)の選手たちが試合中に口にして、話題になったフレーズ「そだねー」。北海道の2法人などが商標出願していたところ、特許庁が「事実上却下する通知」を送っていたと報じられている。一方で、専門家などによると、「まだ商標登録の可能性はある」という。一体どういうことなのか。
●特許庁が送付したのは「拒絶理由通知」
「そだねー」は「新語・流行語大賞」の年間大賞に選ばれるなど、2018年に話題となったフレーズだ。平昌冬季オリンピックが終わったあと、ロコ・ソラーレの地元、北見市にある北見工業大学生活協同組合や、帯広市の菓子メーカー「六花亭製菓」など3団体、2個人が、「そだねー」の商標登録の出願をおこなっていた。
報道によると、特許庁の通知には「『そだねー』が有名になりすぎて、特定の団体に独占させるのは困難だ」という内容が書かれていたという。メディア各社は「事実上却下された」と報じているが、特許庁によると、この通知は「拒絶理由通知」というもので、「却下」にあたらないという。商標にくわしい岩永利彦弁護士が解説する。
「商標は、特許庁の審査によって、登録の可否を行政処分として決定することになります。その際、仮に何らかの反論の機会も与えないまま、登録できないという不利益な行政処分を課してしまうと、出願した人の権利を万全に保障できないことになります。
そのため、最終的な行政処分の前に、出願した人に対して、不利益な行政処分の理由と、それに対する反論の機会を与えるため、暫定的に『このままでは登録できませんよ』と通知するのが『拒絶理由通知』です」
●「拒絶理由通知」があっても登録できることはある
勘違いしてはいけないのは、拒絶理由通知が送られてきたからといって、絶対にそのあと登録できないと決まったわけではなく、登録できるものも少なくないということだ。
「特許庁で審査をおこなっている審査官も、生身の人間なので、認識できる情報に限界があります。そこで、最終的な結論を出す前に、出願した人の意見を『ここでいったん聞いてみるか』などということはあるわけです。
ですので、『拒絶理由通知』は何ら特別なことではありませんし、報道のような『却下』とはいえません。したがって、きちんと反論したり、補正(出願内容の修正)したりして、審査官を納得させることができれば、拒絶理由通知のあとでも商標登録まで持っていくこともできます」
●「そだねー」登録可能性はあることにはあるが・・・
それでは、今回の拒絶理由通知にあった「フレーズが有名になりすぎると、特定の団体が商標登録できなくなる」ということはあるのだろうか。
「今回のような有名なフレーズは、通常、『拒絶理由通知』がされうることになります(商標法3条1項各号)。細かい規定なのですが、わかりやすく言えば、『そのフレーズの商標では、それがあなたの会社等の商品やサービスだとは誰も識別できませんよ』ということです。
商標というのは、早い話が『識別の標識』なので、標識としての役目をはたせるようなものではないとダメだ、ということです。フレーズのほうが有名過ぎでは、商品やサービスのほうが隠れてしまうのではないでしょうか」
報道によると、北見工業大学学生生活組合は「そだねー」の商標登録をあきらめるようだが、ほかの団体・個人がそのまま反論などした場合、商標登録できる可能性はあるのだろうか。
「結論としては、小さいですが、可能性はあると思います。商標は特許と異なり、一度ダメでも敗者復活のある世界です。そのうえ、今回、誰も登録できないからと言って、『そだねー』を使ってはいけないということにはなりません。
ですので、懲りることなく、『そだねー』を自社の商品やサービスに使いつづければよいのです。その結果、何年後か何十年後かわかりませんが、『そだねー』と言えば、あの商品(サービス)だね、というくらいになり、標識としての役目をはたせるようになれば、その時点で再度出願をおこなえば登録は可能ではないかと思います。
もっとも、それだけの労力と時間を費やす価値があるかどうかは、私の関知するところではありません」