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ホームレス支援が直面した建設反対「地域から迷惑を引いたら何が残るんですか」
奥田知志さん

ホームレス支援が直面した建設反対「地域から迷惑を引いたら何が残るんですか」

南青山(東京都港区)に児童相談所を建設する計画。一部の地域住民が強く反対しており、12月14、15日に開かれた住民説明会では、「土地の価値を下げないで」などの発言も飛び出すなど、再び注目を集めている。

地域に「異質な人」が入ることを住民は嫌がりがちだ。ホームレスの人の支援を30年以上続ける、東八幡キリスト教会(北九州市)の牧師・奥田知志さんも数年前、同じような反対にあった。

理事長を務める認定NPO法人「抱樸(ほうぼく)」で、ホームレスの人らを対象とした支援付住居施設「抱樸館北九州」を建設しようとしたところ、「治安や秩序が乱れる」「地価が下がる」などの理由から住民による反対運動が起きたのだ。

施設は、住民説明会を何度も重ねるなどした末、2013年に開所。今では、協力してくれる住民も出てきたという。

今年11月、都内であったNPO法人監獄人権センターのトークイベントに出演した奥田さんは、「よく分からないことは怖い」としたうえで、「怖いもの」をなくす機会を地域でいかにつくっていくかが課題だと述べた。以下、トークの内容を紹介したい。

なお、南青山の児童相談所問題は、講演があった11月の時点でも話題になっており、奥田さんは「あのニュースをみると、非常に心が痛い」と話していた。

●「地域から迷惑を引いたら何が残るんですか」

支援付住居施設をつくる――。その計画には多くの人が賛同したという。北九州市民を中心に集まった寄付はおよそ6000万円。

「道を歩いていると、みんなが褒めてくれた。『奥田さんよくやったよね』と。でも、『ここでやる』って言ったら、『何やっているんだ』という話になった」

反対理由として多かったのは「地価が下がる」や「危険」というもの。ホームレスの人の中には、何らかの障害を抱えている人も少なくないことから、障害者差別的な意見もあったという。

社会的に必要なことは理解していても、いざ自分の家の近くにとなると抵抗があるというのは珍しいことではなく、難しい問題だ。

奥田さんは短期間で20回近くの住民説明会を開いたという。その中で、唯一後悔していることがある。「みなさんに迷惑はかけません」と言ってしまったことだ。

「迷惑かけるに決まっているじゃないですか。地域で一緒に暮らすんですよ。そっちも(迷惑)かけてください、こっちもかけますから。地域から迷惑を引いたら何が残るんですかね。迷惑ってそんなに悪いことだったでしょうか」

奥田さんは「自己責任論は『迷惑は悪だ』という道徳を生み出した」と指摘する。

●「無知と無縁は人を歪ませる」

その後、抱樸館北九州は、1年ほど着工が遅れたもののなんとか完成。少しずつ地域に溶け込んでいった。敷地を取り囲んでいた建設反対ののぼりもなくなったという。

今では、地域住民が施設の食堂を訪れたり、地域住民が館内のイベントなどに参加できる互助会の会員になったりするケースも出てきているそうだ。

「無知と無縁は人を歪ませる。よく分からないことが怖いという感情を生み出す。なぜ勉強しないといけないかというと、世の中から、怖いものをどこまで減らせるかということ。何をやっても、最初は恐怖から始まる。そこをどう乗り越えるか」

●「社会は健全に傷つくための仕組み」

今の社会は、「恐怖」を感じなくても良いように「よく分からないもの」をあえて見ないようにしているのかもしれない。怖いから、傷つきたくないから、自己責任論で他人を突き放し、リスクを回避しようとする傾向もある。その結果、「無縁社会」が深刻化している。

しかし、奥田さんは、人と人が出会えば傷つくのは当然として、「健全に傷つくための仕組みとして社会がある」と話す。

「人が出会えば傷つく。元来社会というのは、死なない程度に健全に傷つくための仕組みだと思う。今の社会は自己責任だと言って、人とかかわらない理屈をこねた」

孤立している人は、自分が危機に瀕していることも分からないし、声もあげられない。「『絆(きずな)』は『傷(きず)』も含んでいる」と奥田さんは強調した。

(弁護士ドットコムニュース)

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