日本で難読珍奇のキラキラネームが話題になることが多いが、海外ではトラブルに発展する事例もおきている。CNNによると、米国でこのほど、サウスウエスト航空の職員が、「Abcde」という5歳の女児の名前を笑ったとして母親から抗議され、謝罪に追い込まれた。
「Abcde」の発音は「アブシディー」なのだが、空港の搭乗ゲートの職員が、名前を見て笑い出したそうだ。母子を指差して他の職員に話しかけたため、母親はやめるよう注意したという。
日本でもキラキラネームをバカにされるといったトラブルが起きる可能性はあるが、日本の法律で考えた場合、バカにした相手に対して、法的な対応は可能なのか。坂口靖弁護士に聞いた。
●侮辱罪が成立するか
「人のことをバカにするという行為に関しては、刑法上は侮辱罪(刑法231条)の成立の可能性があります。侮辱罪が成立する場合、拘留または科料に処すると規定されています。
拘留とは1日以上30日未満の日数の期間、刑事施設に拘置する(身体拘束)という刑罰であり、科料とは千円以上1万円未満の金銭の支払いをさせる刑罰のことです。
非常に軽微な刑罰しか規定されておらず、立件され刑罰を課されるということは非常に少ないのが実情だと思われます」
では、民事上の請求は可能なのか。
「民事上においては不法行為(民法709条)の成立の可能性が考えられます。
民事上の不法行為が成立するかどうかを考えるうえで、まず刑事上の侮辱罪が成立するかどうかを考えてみましょう。
侮辱罪は、『公然』と『侮辱』がなされたことが成立要件となります。『公然』とは、『不特定又は多数人が認識しうる状態』のことで、『侮辱』とは、『事実を適示せずに、人に対する侮辱的価値判断を表示すること』です。
『侮辱的価値判断を表示すること』とは、人の社会的外部的評価を下げるような内容を表示することです」
●不法行為責任の追及は難しい
今回の事例に当てはめると、どうなるのか。
「空港の搭乗ゲートという一定程度公開されている場所で、他の職員に話しかけた、という事情が存在していることから『公然』となされた行為だと評価できるでしょう。
しかし、『abcde』という名前を見て笑い出したという行為だけでは、人の社会的評価を下げるような侮辱的な価値判断を示したとまでは評価できず、『侮辱』したとまでは評価できないでしょう。
もっとも、名前について『このような名前を付けるなんてバカだ』とかそのような一定の評価を伴うような言動が伴っているような場合においては、『侮辱』に該当する可能性があります。
このような刑法上の侮辱罪が成立するような場合においては、民事上の不法行為も成立することとなり、損害賠償請求が可能だと考えられています。刑事上の侮辱罪が成立しないような場合、原則的には不法行為も成立しないものと考えられています。
しかし、社会的評価の低下がない場合であっても、名誉感情等が侵害され、それが人格権の侵害に該当するとまで評価されるような場合においては、民事上の不法行為が成立する可能性があります。
今回の事例の場合、侮辱罪が認められるような行為が無いような場合には、人格権の侵害があったとまでは評価し難いと考えられるため、不法行為責任の追及も困難でしょう」