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「9条俳句」不掲載、さいたま市が二審も敗訴 原告側「公民館職員の義務にまで踏み込んだ」と評価
東京高裁でも、9条俳句を公民館だよりに掲載しなかったのは「違法」という判決が下された。

「9条俳句」不掲載、さいたま市が二審も敗訴 原告側「公民館職員の義務にまで踏み込んだ」と評価

「梅雨空に『9条守れ』の女性デモ 」。さいたま市の公民館が、市内の女性(77)が詠んだ俳句の掲載を拒否したことは、憲法が保障する表現の自由にあたるなどとして争われていた訴訟の控訴審判決が5月18日、東京高裁(白石史子裁判長)であった。白石裁判長は、原告勝訴だった一審に続き、「憲法に保障された住民の思想の自由・表現の自由は最大限に尊重されるべき」として、不掲載を違法と断じるとともに、市に作者の女性に対する慰謝料5000円の支払いを命じた。

●「思想や信条を理由に不当な取り扱いをすることは違法」

「9条俳句」とは、女性が2014年6月に東京・銀座で集団的自衛権の行使容認に反対するデモを目撃して、詠んだ俳句。女性が参加している俳句会では毎月、地元のさいたま市三橋公民館の「公民館だより」に俳句を掲載していたが、女性の句を掲載しようとしたところ、政治的に中立であるべきとして、公民館側から不掲載とされた。

女性は思想や信条によって不当な取り扱いを受けたとして、さいたま地裁に提訴。表現の自由や不掲載の正当性などが争われていた。昨年10月の一審判決では、女性が掲載に期待するのは法的保護に値するとして、公民館側の違法性を認めたが、女性があらためて俳句の掲載を申し入れたことをさいたま市が受け入れず、控訴していた。

控訴審判決では、慰謝料の減額はあったものの、一審判決よりさらに踏み込んだ内容となっている。判決文によると、まず公民館とは、住民の福祉を増進する目的で利用されるための公的施設であることから、地方自治体は「住民が公民館を利用することについて、不当な差別的取り扱いをしてはならない」と前提。公民館の職員は、住民の社会教育活動の実現について、「公正に取り扱うべき職務上の義務を負う」とした。

そのため、住民が公民館での社会教育活動による学習成果を発表した時、その思想や信条を理由に、他の住民と比べて不当な取り扱いをすることは、「違法」であると指摘。「思想の自由、表現の自由」について、「憲法上保障された基本的人格権であり、最大限尊重されるべきものである」と明記している。

●「公民館の役割や職員の義務に踏み込んだ、きわめて良い判決」

判決後の東京・霞が関の司法記者クラブで、原告や弁護団らが会見を行った。控訴審判決について、弁護団長の佐々木新一弁護士は、「一審の判決では慰謝料5万円だったのに対して、控訴審判決では5000円という減額になりましたが、判決の内容については、むしろ一審よりも前進した側面がある」と評価した。

弁護団事務局長の久保田和志弁護士も、「きわめて良い判決。さいたま市が原告の俳句創作活動に介入した点について違法性があるかどうかが、重要なポイントだった。民主主義の観点から、さいたま市が介入してはいけないというところが維持されたことは意義があると思っている」とした。

特に、一審では不明瞭だった公民館の役割や公民館職員の義務について明記されたことを評価しているという。「公民館の目的を社会教育法から明記して、公民館の利用により、不当に差別的な取り扱いをしてはならないとした上で、具体的に公民館職員の義務も書かれていて、より実態に踏み込んだ判断となっている」と久保田弁護士は話す。

「最近、公正・中立・公平ということを理由に、市民の自由が制限される事態が他でもたくさんみられる。私達はそういうものを理由に市民の権利を制限してはいけないと主張したが、今回の判決でも、公正中立を理由として正当化できないというふうに結論づけている。他に汎用性のある判断を一部含んでいるのでは」と評価した。

原告の女性は、「一審判決の後にさいたま市に俳句の掲載を申し入れたが、拒否され、控訴されました。さいたま市がなぜ公民館の活動を、市民がやってきていることを認められないのかわかりません。今回、(さいたま市のいう)『中立』も間違いだと指摘されていますので、あらためて掲載を求めていきたいと思っています」と語った。

さいたま市生涯学習総合センターは、弁護士ドットコムニュースの取材に対し、「まだ判決文を読んでいないので、コメントできません。最高裁に上告するかは、判決文をよく読んでから判断したい」と話している。

(弁護士ドットコムニュース)

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