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80歳「シャッター商店街」で開業、「こんなおばあちゃんでも商売できるんや、諦めないで」
中山繁子さんと通町商店街

80歳「シャッター商店街」で開業、「こんなおばあちゃんでも商売できるんや、諦めないで」

香川県第二の都市、丸亀市。さぬきうどんや骨付き鶏、丸亀城といった観光資源を持ち、近年のさぬきうどんブームもあってか、その知名度は全国的にも高い。しかし、JR丸亀駅から徒歩6分 市内の観光名所・丸亀城からも車で5分程度、市の中心部にある「通町商店街」に一歩足を踏み入れてみると、どうだろうか。ほとんどの店のシャッターは閉まり、休日だというのに人もいない。

いわゆる「シャッター商店街」である。ここ40年程、各地方自治体が抱えている課題ではあるが、丸亀市も例外ではないことが窺える。市の人口は11万人。丸亀市の出す統計によれば、丸亀市を訪れる観光客数自体は年々増加傾向にあるというが、どうやら賑わっているのは、人気うどん店など局地的のようだ。丸亀市には、そんな「シャッター商店街」を救うべく、自ら立ち上がった80代の女性がいる。(ライター・岡安早和)

●80歳で開業「おかげさまで、結構忙しいです」

丸亀市に住む中山繁子さん(82)は、80歳で一念発起し、丸亀市の商店街で、洋服のお直しや仕立てを扱うお店<あとりえ 聖介>を開業した。

「今は、主にお洋服やお着物のお直し、リメイクをしています。特にお年寄りは、昔の服を大切に残していることが多いですし、昔は一着一着、良い生地を使っているから、今でも着られるんですね。服が蘇ってくれた、と言って喜んでくださるお客さんを見ると、少しでも社会に役立っていると実感できて嬉しいです」

そう話す中山さんのもとには、実際、取材中も地元のお客さんが訪れてきた。周辺には、<あとりえ 聖介>のような店がなく、特に地元のお年寄りに重宝されているらしい。「おかげさまで、結構忙しいです」と中山さん。

●「イベントは一過性。お店を開けなきゃ」

中山さんが80歳という年齢で開業を決心したのは、シャッター商店街を少しでも元気にしたい、そんな想いが大きいからだという。20代から40代まで花やフラワーアレンジメントなどを扱うお店を経営していたという中山さんは、当時を振り返ってこう語る。

「昔はお店のシャッタ―開けたら、客が入る。物を置いたら売れるっていう時代があってね。隣町からぞろぞろ人が歩いてやってくるような、そんな時代の商店街を見ていますから。若い人は、これが当たり前やと思ってるかもわからんけど、私は今の商店街がすごく寂しいなあって思います」

もちろん、そんな丸亀市のシャッター商店街を、黙って見ているわけではない。最近では、通町商店街の振興組合が「シャッターを開ける会」を設立し、人気アニメ「刀剣乱舞」とのコラボ企画や、グルメ企画など、様々なイベントを行っている。

しかし、たとえイベントが盛り上がっても、シャッター商店街そのものの改善にまで結びつけることはやはり難しいようだ。

中山さんもそんな状況には危機感を覚えている。

「イベントは確かに人がたくさん来てくれますから大事ですけど、どうしても一過性でしょう。お客さんも根付かなくて、シャッター商店街も結局そのままなんです。やっぱり、一軒でもお店を開けなきゃ意味がないですから。

だから、こんなおばあちゃんでも商売できるんや、ってひとりでも多くの人に伝わればいいなと思ってやってます。今は、みんな諦めムードになってしまってますけど、私を見て、誰かが後に続かんかなって。地味ですけどね」

●40代のころ契約トラブルで閉店、波乱万丈な人生

そう、のんびり話す中山さんに、こんなにもバイタリティーが溢れていることには驚かされるが、中山さんの波乱万丈の人生を聞けばそのタフさにも頷ける。

「終戦直後の小学校5年生頃、私は体が弱かったので、家の中で遊べるようにと当時高価だったミシンを買ってもらいました。それが私の原点ですね。何かコツコツ作るのが好きなんです」

20歳頃には小さな花屋を、その後は、造花やフラワーアレンジメントを扱うお店を経営した。「60年前、売ってる花といえば仏壇に飾る花ばっかりでしたよ」というから、きっと当時としてはおしゃれな店だったに違いない。

県外までフラワーアレンジメントの勉強会に通うなど、お店のために努力を惜しまなかったが、40代で店舗の契約トラブルからそのお店をたたむことになってしまった。中山さんは、当時のことを思い出すと「今でも悔しい」という。

「私が契約書の確認をきちんとしなかったのも悪いんですけど。また自分のお店が持ちたいと、ずっと思ってました。80歳でお店を始めたのはその時の経験も大きいです」

また、プライベートでは、離婚を経験し、息子さん2人を女手一つで育て上げた。

「離婚して独り身になりましたけど、今は次男が近くに住んで色々面倒を見てくれています。長男は、私に似たのか東京で服飾関係の仕事をしてるんですよ。<アトリエ 聖介>という店名は、そんな長男の名前を付けたんです」

さらに、66歳からは、家庭の事情で、まだ赤ん坊だった2人の孫の面倒もみていたという。

「特に66歳からの子育ては大変でしたけど、孫は今でもお店に顔出してくれたりして、本当にいい子に育ってくれました」。

●「常に目標を抱いて生きている」

傍から見ると、中々苦労の多い人生にも思える。「確かに、苦労したり、お金がなかったりする時期もありました。でも、能天気なのか、全然くよくよしたことはないですね」と中山さんはいう。

その理由を訊ねると、「今思うと、小さなものから大きなものまで常に目標を抱いて生きているからでしょうね」とのこと。

小柄で、ゆったりと話す中山さんだが、人一倍の負けん気の強さと前向きさも秘めているようだ。

そして、もちろん、82歳になった今でも中山さんには目標がある。

「次は、近所のお年寄りが集まって一緒にハーブティーを飲めるようなカフェを開きたいですね。みんなでわいわいして、健康になれればいいなと思います。あとは、やっぱり可愛い孫にまだまだ何かしてあげたい。成人式の振袖は私が作ってあげるんだって決めてます」

「まだまだ死ねません」と、中山さんは微笑む。

【取材協力】

中山繁子さん。香川県丸亀市の通町商店街で「あとりえ 聖介」を経営。

【ライタープロフィール】

岡安早和。大学卒業後、企業の法務部にて勤務し、転勤族の夫との結婚を機にライターに転身。2017年から香川県高松市在住。

(弁護士ドットコムニュース)

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