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ジャニーズとビッグモーターの共通点、"経営者の暴走"止められない「同族経営」は本当に良くないことなのか?
ジャニーズ事務所(左)とビッグモーターの店舗(いずれも弁護士ドットコム撮影)

ジャニーズとビッグモーターの共通点、"経営者の暴走"止められない「同族経営」は本当に良くないことなのか?

ジャニーズの性加害やビッグモーターの保険不正請求など、いわゆる創業家一族に経営されてきた企業で発生した問題が世間の注目をあつめている。企業法務にくわしい浅井耀介弁護士によると、創業家一族による経営体制は、意思決定が迅速であることなど、一定のメリットがあるものの、デメリットも大きいという。浅井弁護士に聞いた。

●ジャニーズとビッグモーターの共通点

ジャニーズ事務所やビッグモーターの騒動前の株主構成や経営陣などをみてみますと、ジャニーズでは、創業者であるジャニー喜多川氏のめい、藤島ジュリー景子氏がジャニーズ株100%を保有しており、かつ同社の代表取締役社長までつとめていました。

また、これまでの報道によると、ビッグモーターでは、創業者である兼重宏行氏とその息子である宏一氏が保有する会社(ビッグアセット)がビッグモーター株100%を保有しており、かつ、宏行氏と宏一氏はそれぞれビッグモーターの代表取締役社長と副社長をつとめていました。

両者の共通点としては、創業家一族が支配株主(=会社の所有者)であること、役員として経営権まで有していたことが挙げられます。いわゆる「同族経営」だったということです。

この同族経営については、正式な定義があるわけではなく、ファミリー企業や同族会社など、類似の概念も存在しますが、大まかにいえば、特定の会社を特定の一族が支配・経営していることを指す、と理解していただければ十分だと思います。

●「経営者の暴走」を止めることができない

商法上、会社の所有者(=株主)と経営者(=役員)は、別であるべきと考えられています。これは「所有と経営の分離」と呼ばれています。

会社法では、このような考え方を前提として、取締役に対する違法行為差止請求(360条)、役員解任の訴え(854条)、代表訴訟(=役員等に対する損害賠償請求の訴え)の提起(847条)などが、一定の要件の下で株主に認められています。

所有者(=株主)には、経営者(=役員)の暴走を止めるための監視・監督機能が期待されているといえます。

この点、同族経営になると、このような働きを株主に期待しづらいというデメリットが生じます。

なぜなら、同族経営の場合は、監督者である株主と、監督される立場の経営者が、親族同士あるいは同一人物となり、どうしても監督の目が甘くなりやすくなるからです。「所有と経営の分離」という考え方に真っ向から反するといえるでしょう。

●同族経営は「良くないこと」なのか

ただし、同族経営を絶対に避けたほうがよいのかというと、必ずしもそうとはいえません。

実際、同族経営の企業は、決して特別なものではなく、2015年にスイスのザンクトガレン大学により発表された「売上が高い同族経営企業500社」によると、世界最大規模のスーパーマーケットチェーンであるウォルマートや、ポルシェで有名なフォルクスワーゲン、国内でいうとサントリーホールディングスやユニクロで有名なファーストリテイリングなども同族経営企業として挙げられています。

このように大企業をはじめとした数多くの企業が同族経営という形態を採用している理由としては、「迅速な意思決定が可能である」ということが挙げられます。株主や役員など、会社の意思決定機関を創業家一族で占めることができれば、その一存で経営方針を決めることができるからです。

コーポレート・ガバナンスの観点からは避けたほうがよいとされる同族経営も、売上などからみると、一定のメリットがあるといえるでしょう。

●創業家一族が保有する株式の取り扱いが重要ポイント

今回の騒動を受けて、ジャニーズやビッグモーターでは、まず、社外取締役の就任が発表されました。

同族経営において、株主による監視・監督が期待できないのであれば、代わりに社外役員が監視・監督の目を光らせますという狙いでしょう。

ただ、結局、社外役員が主要な役員に対して、きちんと口を出せる立場になければその実効性は期待できないということになりますので、今回の騒動は、社外取締役の就任の発表だけでは、なかなか収まらなかったわけです。

そこで、まずジャニーズは9月19日、同社ホームページで「藤島氏が保有する株式の取り扱い」についても議論をおこなったということを公表しました。株式を創業家一族の手から放そうとしているのだと思われます。

藤島氏の保有する株式の行方について、現時点で確かなことはわかりませんが、適切な第三者の手に渡れば、今後は株主による監視・監督機能が働くことが期待できます。

また、ビッグモーターにおいても、創業家一族が保有する株式の取り扱いが最重要課題となることは間違いないでしょう。

なぜなら、兼重氏らが株主である限り、真の意味での経営改革は期待できず、また、「ビッグモーターの利益=兼重氏らの利益」という構造のままでは、顧客離れに歯止めをきかせることができないからです。

創業家一族の保有する株式の売却は、経営再建の大前提となるでしょう。

あとは、株式の買い手が現れるのかどうか、というところですが、ビッグモーターの所有する車や店舗などの資産は一定の価値があるでしょうから、そこも含めて事業を譲り受ける企業やファンドが現れてもおかしくはないかと私は見ています。

プロフィール

浅井 耀介
浅井 耀介(あさい ようすけ)弁護士 レイ法律事務所
アンダーソン・毛利・友常法律事務所退所後、レイ法律事務所に入所。一部上場企業や大手金融機関等の顧問、投資法人やファンドに関する業務、大規模なM&Aなど企業法務を幅広く経験。現在は芸能案件や学校問題、刑事事件を主に扱い、旅行業にも関心が高い。

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