客からの暴言や暴行、不当要求などで働く人の就業環境を害するカスタマーハラスメント(カスハラ)について企業事例から学ぶシンポジウムが9月18日、東京都内で開かれた。スーパーやラグジュアリーブランドなどで長年、お客様対応にあたってきた担当者が意見を交わした。
イトーヨーカ堂お客様相談部総括マネジャーの鈴木隆一さんは「お客様の声の大半はありがたい言葉で、カスハラはごく一部です。ただ、カスハラが原因で従業員が辞めたり、出社できなくなったり、人と接する仕事に就けなくなったりするケースはあり、その事実を知ってほしい」と呼び掛けた。(ライター・国分瑠衣子)
カスタマーハラスメントの対応策について、企業のお客様担当者らが話し合ったセミナー
●クレーム対応のポイントは「傾聴と共感」
シンポジウムは、消費者教育などに取り組む一般社団法人消費生活総合サポートセンター(小野由美子会長)が開き、消費者や企業のお客様対応の担当者ら約50人が参加した。
鈴木さんは現場で対応するクレームの傾向として、「自分に直接関係のない、社会で起きていることに関連する意見が結構あります」と説明した。この1週間で多いクレームは「ジャニーズ事務所のタレントが宣伝する商品を売るのか」などのジャニーズに関するものが目立つという。何度も同じことを言う客もいる。ロシアがウクライナに侵攻した時は「ロシアのものを売るな」というクレームもあった。
クレーム対応のポイントについて鈴木さんは「『傾聴と共感』が大切で、とにかく相手の話を聞くこと。相手の要求が分からないと対応にズレが出て、大きなクレームに発展してしまう可能性があります」と語った。
ラグジュアリーブランド「ルイ・ヴィトン」で10年間、顧客対応にあたった近藤修さんは「お客様の目的は何かを考えながら聞くことが大事だと思います。『俺はいいけれど、社会は許さないよ』などと言われた言葉をメモするうちに、相手がただ話を聞いてほしいだけだと気付いたことがあります。無理に答えを出さないほうがよい場合もあります」と話した。
●できないことは明確に断ること
参加者からはクレーム対応マニュアルの作成や、社内教育の方法について質問が上がった。
鈴木さんは「会社のマニュアルは、メーカーや小売、金融などの業種や、企業規模の大きさによって変えなければならないと思っています。まず自分の会社でマニュアルを作り『見える化』してみてはどうでしょう。『電話対応は30分まで』など文字にすることで、自社に合う運用、合わない運用が分かり、少しずつ精度が上がります」と助言した。
イトーヨーカ堂では、売り場責任者や店舗責任者など役職に就く都度、お客様対応の研修を行っている。また、事例ごとに悪質クレームへの対応をまとめた市販のハンドブックを、店長やお客様対応の責任者に配布し、都度参考にしてもらっている。
「毅然とした対応とは何か」についても話し合われ、かつてJCBでお客様相談室長を務めた沼田秀穀さんは「個人ではなく会社全体で、できること、できないことを明確にし、できないことははっきりと断ることが重要です」と指摘した。
シンポジウムでは、各社のカスハラ対策について情報共有も行われた。ある流通関係の出席者は、パートやアルバイトが直接カスハラを受けた段階で、すぐに社員や店長が対応し、それでも収まらない場合は、本部や経営層が対応する自社の対応策を紹介した。このほか「若い女性というだけで『責任者はあなたなのか』と、男性が対応しなければ満足しない客もいて、苦慮する」などの声が上がった。
シンポジウムを主催した小野由美子会長は「カスハラの加害者にならないために消費者への教育が大切です。正当なクレームの伝え方など、消費者が学ぶ場を継続して開きたい」と話している。