サッポロビールのビール系飲料「極ZERO」が、酒税の税率が低い「第3のビール」にあたるかが争われた訴訟で、東京地裁(古田孝夫裁判長)は2月6日、「第3のビールには該当しない」と判示した。
すでに納めた酒税約115億円の返還を求めたサッポロ側の請求を退け、国税当局の解釈が妥当だとした。判決言い渡し後、古田裁判長は「製造工程や各種データを検討し、該当しないと判断した」と述べた。
●サッポロ「今後の対応は協議して決める」
国税庁は「今回の判決では国の主張が認められたものと理解している」とコメント。サッポロホールディングスは「今後の対応につきましては、判決内容を精査し、訴訟代理人とも協議のうえ決定いたします」としている。
第3のビールとして2013年に発売された極ZEROは、国税当局から「第3のビールに該当しない可能性がある」との指摘を受け、出荷を停止。いったん高い税率との差額115億円を自主納付した。その後は別の製法に切り替え、区分を「発泡酒」として再発売していた。
ただ、サッポロ側は改めて自社で検証を重ねたところ、「第3のビールで間違いない」との確証を強め、納めた酒税を返還するよう求め、提訴していた。
大手ビールメーカーが、酒類の区分をめぐり監督官庁の国税当局を訴えたことは異例で、発覚当初から業界を驚かせ、消費者の関心も集めた。今回の判決について、税法に詳しい林朋寛弁護士に話を聞いた。
●判決の酒税法解釈「公開されるべき」
ーー「棄却」判決と知り、どのような感想をもちましたか。判決文の閲覧が制限されているとも報じられています
「サッポロクラシック(北海道限定)が好きで個人的な心情としてはサッポロビールを応援していたので、棄却判決は残念に思います。しかし、『棄却』の結論が妥当なのかどうかは、訴訟記録はもちろん判決文さえも見ていないので何とも言えません。
本件で問題となった酒税法の規定の解釈については、今回の判決の中で一般国民としても納得できる合理的な理由が示されていることを期待しています。
製法等のサッポロビールの営業秘密に関わる部分については訴訟記録の閲覧等の制限がされているとのことです。そうであっても、判決書の酒税法の解釈の部分については公開されるべきでしょう」
●「酒税」考えるきっかけに
ーー 今回の訴訟はどのような意義があったと感じていますか
「本件の争点はいわゆる『第3のビール』にあたるか、つまり酒税法23条2項3号に該当するかどうかであったと考えられます。
その条文を読むと容易に該当するかどうか判断できそうにも思いますが、製法の発展等によって、実際には容易に判断ができなくなったものと考えられます。
そうすると、酒税法の規定は、現在の製法技術に合致しない要件の定め方をしているといえるのではないでしょうか。
今回の訴訟は、酒税法の規定が時代遅れになっているという疑い、課税要件明確主義(憲法84条)に違反している疑いを社会に示したという意義があったと考えます」
ーー今回の訴訟は「酒税」という存在について改めて考える一つのきっかけになりましたね
「はい、そのように思います。原告は意図してはいないでしょうが、そもそも酒税を存続させる現代的な意義があるのか、製造時に酒類の種類に応じて酒税をかけることに合理性があるのか、といったことを考えるきっかけにもなったのではないでしょうか。
また、企業として納得のいかない課税については、国の言うままに従うのではなく、法定の手続でしっかりと不服申立をするという姿勢を示した意義も、わが国の社会にとって小さくないと考えています」
●国税に勝訴するのは「容易でない」
ーー国税に勝訴するのは難しいのでしょうか
「ざっくり言えば、課税処分に納得いかないで争った納税者のうち約2割が不服申立や訴訟で勝っています。
国税に勝訴するのは割合としては容易とはいえないとしても、全く見込みのないものではありません。納得のいかない納税者は不服申立ての手続や訴訟で異議を述べてチャレンジする価値はあると考えます」
ーー詳しくはどのようなデータになっていますか
「国税庁の発表している統計によると、平成29年度に終結した国側を被告とする訴訟210件のうちで原告(納税者)側が勝訴したものは21件だったとのことです。そうなると原告の勝訴率は10%ということになります。
同じ資料で見ると、平成24年度に終結した383件に対し原告勝訴が24件(6.3%)で、平成28年度が終結245件に対して原告勝訴11件(4.5%)となっています。割合としては、9割以上の訴訟が原告が全部敗訴していることになります。
ただし、訴訟は事案ごとに事実関係や争点が異なりますので、税務関係で国側を訴えたら10%の確率で勝てる(9割の確率で負ける)という単純な話ではありません」
ーー税務訴訟に至るまでいくつかのハードルがありますね
「はい。税務訴訟は、訴訟前に税務署長等に対する再調査の請求や、国税不服審判所への審査請求という不服申立の手続を経ることになっています。
平成29年度に不服申立で納税者側の主張が認められた割合は、再調査の請求については12.3%、審査請求については8.2%となっています。つまり訴訟前の不服申立の段階で10%前後は納税者側の主張が通っているといえます。
不服申立で主張が通らなかった納税者が訴訟提起をしますので、不服申立で負けた納税者のうちの10%は訴訟で勝っているという見方ができます」