消費税率がついに5%から8%へ引き上げられた。この春の増税によって、下請けの中小・零細企業が取引する際、相手企業から納入代金への消費税転嫁を拒まれたり、消費税分の値引きを求められたりするケースがおこりうるのではないかと、危惧されている。
そんな事態を防ぐため、消費税の転嫁を拒否する行為を禁じた「転嫁対策特別措置法」が昨年10月に施行された。その一環として、企業の監視強化に向けて、公正取引委員会と経済産業省(中小企業庁)が全国に約700人の専門職員を配置した。転嫁対策調査官、通称「転嫁Gメン」だ。転嫁拒否がないか、Gメンたちが全国の企業を調査し、違反事例があれば是正するよう指導しているという。
公取委・中企庁によると、増税直前の今年3月だけで、違反行為が判明した事業者への指導が1199件に達したそうだ。デフレなど厳しい経営環境に悩む中小・零細企業にとって、非常に頼もしい存在だろう。転嫁Gメンたちは、いったいどのように調査を進め、転嫁拒否の事実を突き止めているのだろうか。籔内俊輔弁護士に聞いた。
●特別措置法の目的は「弱い者いじめの防止」
この「転嫁対策特別措置法」が制定された目的について、下請け企業など取引上の「弱者」を保護することだと、籔内弁護士は言う。
「取引上の立場が弱い企業は、取引先から消費税の転嫁を拒まれると受け入れざるを得ない場合が多いでしょう。こうした行為に類似した行為を禁止する規制として、たとえば、取引上の立場が強い者が相手方に不利益を無理強いをすることを禁じる独占禁止法の『優越的地位の濫用』規制があります。
また、下請代金支払遅延等防止法(下請法)という法律で、下請取引に関して、発注者が下請事業者に不利益となる行為(下請いじめ)をすることを禁止していますが、これらと趣旨は同じですね」
そうなると、独禁法や下請法でも「弱い者いじめ」に対する規制ができそうだが、今回の増税に際して、新たに「特別措置法」として制定されたのはなぜだろうか。
「過去の消費税増税の際に特に中小企業は消費税転嫁が困難だったという経緯を踏まえ、増税分の減額や増税後の税込価格の据置きなどの代表的な転嫁拒否行為について、優越的地位の濫用や下請法違反よりも画一的・形式的な判断基準で違反かどうかを容易に判断でき、迅速に取り締まりできるよう、特別に作られた規制と理解されています」
それでは、「転嫁Gメン」とは何か?
「転嫁Gメンは、「転嫁対策特別措置法」に基づき、企業に事実関係を報告させたり、立入検査を行ったりする権限を有しています」
転嫁Gメンは、どのような調査を行うのか?
「下請法違反に対する調査とよく似ています。
具体的な調査は、転嫁拒否を受けた被害企業から個別に情報提供を受けるほか、公取委や中企庁から、違反企業・被害企業になりうる企業の両方に、アンケート形式の調査票を大量に送付して違反の疑いがある企業の情報を収集するところから始まります。
これらの情報をもとに、違反が疑われる企業に個別に立入検査を行って、消費税分を支払っていない証拠となる経理関係の帳票や、消費税を支払う代わりに従業員の派遣を受ける等の利益提供をさせていたことを裏付ける資料等の提出を求めていきます。また、企業担当者の事情聴取をしたりして、事実関係を解明していきます」
●違反した企業は名前が公表されることも
違反が見つかったらどうなるのか?
「違反があると判断されると、公取委や中企庁は、未払いの消費税分を支払うことや、今後増税分を支払っていくこと、また、今後同様の違反が起きないように社員教育等の対応を取ること等を指導します。
また、多数の取引先に多額の転嫁拒否行為をする悪質な事案について、公取委は、企業名や事実関係を公表して『勧告』することもできます」
この「勧告」で違反企業の名前が公表されれば、企業のイメージダウンにもつながる可能性があるので、企業もそうならないように努めるということだろう。
では、どんな実例があったのか?
「JR東日本の子会社が、昨年11月と12月に、駅構内の商業施設で今年4月から実施する『値引き等のセール』で販売する商品の仕入価格に増税分を反映させないまま、取引先161社にセールへの参加を要請したとして、今年4月23日に公取委から勧告を受けています」
そして、JR東日本の子会社は、増税分を支払うことや社内研修など再発防止を行うように指導されたという。
「今年4月からは、大企業に立入検査が集中的に実施されています。その中で重大な事案が判明すると、さらに『勧告』事案が出てくるでしょう」