川越少年刑務所(埼玉県川越市)に収容されていた男性受刑者(当時23歳)が死亡したのは、刑事施設の医師が適切な医療を怠ったためだとして、遺族が国に損害賠償を求めた訴訟の控訴審は10月15日、東京高裁(中村さとみ裁判長)で和解が成立した。
和解後に、遺族とその代理人が都内で記者会見を開いて明らかにした。男性の母親(51)は「こちらの主張が認められ、裁判をしてよかった」と語った。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)
●精巣腫瘍で手術、がん転移し23歳で死亡
訴状などによると、男性は懲役6年の実刑判決が確定し、2019年3月11日に刑事施設に収容された。
2020年1月、陰嚢(いんのう)の腫れをうったえ、2カ月以上が経った後に「精巣腫瘍(セミノーマ)によるものだと強く疑われる」と診断され、摘出手術を受けた。
しかし、同年10月にがんの転移が判明。2021年7月、23歳の若さで亡くなった。
男性の母親らは、刑事施設の医師が適切な医療を怠ったことが死亡につながったとして、国に損害賠償を求めて提訴した。
東京地裁は2025年10月、国に150万円の支払いを命じる判決を言い渡したが、母親らが控訴していた。
●「外部病院の移送を適切に判断すべき」の一文も
原告代理人によると、今回の和解では、国が男性に対する刑務所での医療について、社会一般の水準に照らして不適切な点があったことを認め、遺族に解決金350万円を支払うことになった。
また、和解条項には、刑事施設の収容者を外部の病院に移送するかどうかについて、「医療上の必要性も踏まえ、適切に判断するべきであることを確認する」という一文も盛り込まれた。
解決金は、一審では考慮されていなかった男性の父親の分が加わり、150万円から増額されたという。
●母親「息子に伝えたい。裁判をしてよかった」
和解後に記者会見を開いた男性の母親は「友だちが多くて明るい息子だった」と振り返った。
そのうえで「息子は悔しい思いをしていたので、こちらの主張が認められ、無事に裁判が終わったことを伝えたい。裁判をしてよかった。終わってほっとしています」と語った。
代理人をつとめた海渡雄一弁護士は「非常に意義がある和解になった。今後の刑務所医療の改善に一歩でもつながるんじゃないか」と評価した。
また、海外には、医師が独自の判断で収容者を外部の病院に移送できる国があると説明。
「日本でも、そうした改善をすれば今回のようなことは起きない。その意味で、本当はこうした改革の必要性もはっきりわかるような事件だったのではないか」と述べ、刑事施設の医療体制の見直しを求めた。
男性が収容されていた川越少年刑務所(2026年1月、埼玉県川越市で、弁護士ドットコムニュース撮影)
●矯正医官が個人情報をネットに掲載、別の国賠訴訟も
この問題をめぐっては、別の訴訟も起きている。
医療過誤訴訟で国から依頼されて意見書を作成した法務省の矯正医官が、職務上知り得た男性の個人情報をインターネット上で公開したほか、海渡弁護士を誹謗中傷する内容を自身のホームページに掲載したなどとして、男性の母親らが今年6月、国に計880万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こしている。